その日の夜は相変わらず夢見が悪く、朝の目覚めは最悪だった。頭はガンガンするし、異様に喉が渇いている。妙な風邪にでもかかってしまったのだろうか…マダムに今度見て貰わなくては。名前はとりあえずぼさぼさの髪を何とかすべくマグル界で流行っている寝癖直しスプレーを数回かけ、ざっくりと手くしで髪をとかすと冷たい水で顔を洗い…これでようやくすっきりするかと思われたが、一向に収まる事のない頭痛に仕方なく朝食は部屋で食べる事にし、マダムから頭痛薬を貰った。
「…先生、寝不足ですか?」
「え?そう見える?」
「うん、見えます…大丈夫ですか?」
授業初日、なんだか女子生徒が増えたようなきがするな、なんて思いながら出席をとっていると、早速目の下の隈に関して生徒に指摘されてしまった。
「じゃあ、Ms.バートン、私もファンデーションでもつけようかな」
とりあえずここでギャグを、と思い呟いたこのギャグ、思いのほか生徒たちにウケが良く(特に女子生徒たちはお腹を抱えて笑っていた)今後活用しようと思った。
「あはは、先生面白い、それに隈を隠すなら、コンシーラーの方ですよ」
「コンシーラー?へぇ、詳しいねMs.バートン」
流石は年頃の女の子だ。なんとか自分の寝不足の件から話を逸らす事が出来たところで出欠確認は終わり、授業が始まった。最初のマグル学の授業は3年生で、去年とは違いマグル界で流行っているファッションの話題から始まった。女子生徒と男子生徒が6対4の割合になっている為か、女子たちは熱心にファッションに関してディスカッションしていたが、男子生徒たちは一部だけが熱心にディスカッションをしていて、大半は女子たちの熱いファッショントークをうん、うん、と聞いているだけだった。ファッショントークはそこまで長く話す予定ではなかったのだが、次々と女子生徒たちがディスカッションを初めてしまうので、結局その日の授業はファッショントークだけで終わってしまった。まぁ、これも大切な授業の一環だ。学び・楽しむというのが最も重要で、今日の授業も一応これに当てはまるだろう。
翌日の午後、その日のすべての授業が終わったので生徒たちからもらったお土産を食べながら明日の授業の支度をしていると、突然静かな部屋にノック音が響き渡る。どうぞ、と短く答えると、そこには珍しいお客さんが来ていた。
「先生、パーシー・ウィーズリーです、その…父の件で…」
控えめな声でやってきたのは、6年生のパーシー・ウィーズリーだった。彼はマグル学を取ってはいなかったが、とても優秀な生徒で監督生だと聞いている。そのパーシーが、アーサーの頼まれごとの件で妹と一緒にやってきたようだ。パーシーに言われ、ああそういえば、とアーサーに頼まれていたことを思い出す。
「やぁパーシー、それに君はジニーだね」
「―――はい、ジニー・ウィーズリーです」
パーシーの次にジニーと握手した瞬間、すぅ、と体の中に冷たい何かが入り込むような感覚を感じたが、きっと最近寝つきが悪いせいで貧血気味なのだろう、と自己解決する。
「さて、あのアーサーの頼まれごとの件だけど~…扉閉めたね?」
「はい、勿論です…その、すみません、お忙しい所…」
申し訳なさそうに声を出すパーシーに思わず名前も苦笑を漏らす。
「君はしっかり者だね…うーん、アーサーの趣味に文句を言うつもりはないんだけどね、今回の件は…まぁ、やらかしすぎてしまったからね…はい、これをアーサーに渡しておいてね」
今回の件で車を無くしたアーサーに頼まれていたのは、マグルの安全な中古車が掲載されている雑誌だった。紙袋に入った厚手の中古車雑誌をパーシーに手渡すと、またパーシーは申し訳なさそうな顔でそれを受け取った。君がそこまで気にすることじゃないよ、とは言ったものの、今回の件は彼にとってはとても恥ずかしかったことのようで、雑誌を受け取るなりすぐさま鞄の中にそれをしまう。その様子を見て、名前は再び苦笑を漏らした。
「アーサーに悪気があった訳じゃないよ」
「でも、現に問題が起きました…父のマグル好きには時々呆れてしまいますよ」
「ははは、アーサーの事、よろしく頼んだよパーシー、それにジニーもね」
「はい」
「は、はい」
面倒見のいいパーシーは、まだホグワーツに慣れていないジニーにホグワーツの教室や場所を教える事も兼ねて名前の部屋にやってきたようだ。まあ、もちろんメインの頼まれごとも含めて。
2人がいなくなり、再び静けさを取り戻した名前の私室だが、妙な寒気を感じきょろきょろと部屋を見渡す。この歳でおばけを怖がるわけではなかったが、妙な視線さえも感じる。
「はあ、一体どうしたことやら…マダムに風邪薬を処方してもらうか…」
この時、ジニーが持ち運んだあるものがすっと本棚の隙間に入っていったのを名前は気が付かなかった。
「―――ああ、驚くでしょうね、他の人たちは…特に、ダンブルドア先生はどう思うでしょうかね」
「―――君は、私に恨みを抱いているんだろう…だから、こんな」
その夜、名前は悪夢の中で必死にもがいていた。罪の意識で、魂が張り裂けそうだ。ああ、どうしてこんなことに…名前は自由の利かない腕で必死に彼の手から逃れようとするが、シャツのボタンを一つ一つ丁寧に、そこから露になった程よい筋肉のついた胸元に浮かぶその印をウットリと撫で上げる。ゆっくり、ゆっくりとまるで愛撫しているかのようにそこへ指先を這わせ、悪魔のような笑みを浮かべる。性的な震えを感じ、名前は必至の抵抗として彼から視線を逸らした。
「くく、先生は…いじらしいな、だけど身体は素直だ」
「ト…、トム…君には将来がある、君の将来を台無しにしたく―――なっ」
トム・マールヴォロ・リドルは両手の自由を奪われている名前の上に馬乗りになり、着々と彼の身体を暴いていく。胸元に浮かび上がるその印の上をツツ、と人差し指で撫で上げたかとおもいきや、そこに熱く蠢く舌のざらつきを感じ、名前はびくり、と肩を揺らす。空いた左手で胸の突起に撫でるように触れるので、思わず名前は小さな悲鳴を漏らした。
「ひっ…うっ…」
「先生、声、抑えないと聞こえてしまいますよ」
最後の授業が終わり、生徒たちは夕飯までの時間をそれぞれ楽しんでいる頃だろう。そんな時間帯に、淫行に耽っているなんて、ましてや相手はホグワーツの生徒…スリザリンの首席だ。誰からも慕われ、成績は優秀、そしてホグワーツ一ハンサムとも謳われている彼が、何故一教師の名前を執拗に追い詰めるのか。それは、トムと名前だけの秘密だった。トムが名前の秘密を知ってしまったあの日から、この関係は始まった。
「ん、ぅっ……っ」
深い口づけを受けながら、名前は必死に打開策を探していた。視線を逸らそうとしても無理やり顎を掴まれ、そして角度を幾度も変えられながら、深く、深く魔力を貪られくらくらと眩暈を感じる。いつの間にかに露にされた名前のそれを、じわじわと、意地悪く攻め立てるトムの手を名前はどける事ができなかった。魔力をうんと奪われ、ぼうとする視界の端で赤い悪魔が微笑む。
「生徒と教師が…淫行に耽っているなんて」
とても背徳的だね、と整った口が弧を描く。耳元で囁かれた声は、艶を含んでおりとても甘美なものだった。しかし、その言葉に深く傷つき、更なる罪悪感に苛まれた名前は、瞳を細め、零れ落ちそうになる涙を必死にこらえた。その姿があまりにも扇情的に見えたのかトムは静かに生唾を飲み込む。
自分よりも年上の、ましてや男を支配し、征服する背徳感にゾクゾクと自身が高揚してくるのを感じ、トムは固く閉ざされたそこを早急に暴き始めた。あまりの出来事に、名前は苦痛の悲鳴を漏らす。
「あッ――――うっ…!」
「はは、痛かったですか?」
トムの指先には名前から絞り出したそれが纏っており、皮肉にも自分自身が分泌したものが潤滑油となり名前の中を暴いている。興奮のスイッチが入ると、凶暴になるトムの性格は、このような場合顕著に表れる。この少年に無理やり犯されるのは、この日が初めてではなかったが、未だに慣れることのないこの行為に名前は虚しさを感じずにはいられなかった。
トムは私の秘密を知ってしまった、それを握られている以上、彼が求めているこの行為を断る事が出来なかった。内臓をかき乱されるかのような苦しみの向こう側では、恐ろしい快楽が待っている。これから、トムは私を奈落の底に落とすだろう。秘密を握られ、弱みを握られ、自由を奪われ―――無理やり中を暴かれる。暴力的にかき乱されたかと思いきや、苦痛の声が嬌声へと変わる。この、虚しい行為は名前を奈落の底へと落とし、深い罪悪感に苦しむこととなる。トムは分かっていた。名前がこんな事を望んでいないことを、そして未来がある若い少年をこんな場所まで引き込んでしまった罪悪感を抱いていることを。
「んうっ……あっ!」
「―――先生の魔力は、すごいね、本当に…こんなに…満たされた気持ちになる」
「んんッ……っああぁ!」
この行為が、名前の魔力を多く消費…正しくは多く奪われる行為であることをトムは分かっている。だから、器用に口づけで魔力を分けつつ、中から魔力を奪う。熱く猛ったそれを押し込まれた名前は耐え切れず悲鳴を漏らす。口を押えたくとも、抑える腕が縛り付けられている以上、唇を噛むしかなかった。だが、快楽で自由の利かないその唇を優しく、時には激しく貪られ、声を抑える事が出来ない。これ以上声が漏れたら大変だと妙に冷静なトムは無言呪文で防音魔法をかけ、部屋のカギを厳重に閉めた。これも僕の優しさなんですよ、と耳元にねっとりと舌を這わせながら囁くトムに、再び名前は悲鳴を漏らした。
かつて、あの魔蜘蛛に魔力を供給するためのエサに過ぎなかった自分が、魔法使いに助けられ、人間の中で暮らして、家族の愛を知った……幸せを手に入れたと思ったが、家族とも死に別れ、そして今となってはうんと年下の少年に肉体と魂を支配され、彼のエサに成り果てている。
名前は激しく揺さぶられながら、ぼやけた視界の中で妖艶に微笑む赤い悪魔を見つめた。全ての元凶は、彼が――――あれを目覚めさせたあの日から…。