本当に怖いこの島怖い。ケイミーが人さらいに会い、彼女を助ける為、一行はヒューマンショップまで来ていた。来てみればあの男がいて、不意に目が合うとにやりとされた。本当にここ怖い早く出たい。そっとサンジの後ろに隠れさせてもらった。
「ナミ、お金大丈夫?」
「2億あるから大丈夫よ」
「モリアには感謝だね」
この2億は、スリラーバークで手に入れたお宝。売りに出せばもっと高値が付くものもあるだろう。ともかく2億もあれば、人魚を無事落札できるはず…この時は簡単に考えていた。
暫くすると人間がモノとして売られていくこの反吐が出そうな場所でケイミーを懸けたオークションが始まった。しかし、いくら何でも競う相手が悪すぎた。
「5億で買うえ~」
天竜人の男がケイミーを5億で落札した。宇宙服のような不思議な服を纏った彼らは、ここの世界で最も力ある者―――世界貴族、天竜人。彼らに逆らえば最後、命はない。
ある程度お金は持ってきたつもりだが、まさか5億…予算が足りない以前に、世界貴族に落札されてしまうとは。魔法でデコイを作るか?アクシオを使うか?杖を取り出そうとするが、サンジに止められる。
「駄目だ、名前さん」
「でも…っ」
「君も狙われているんだ」
「…それは…」
ここで目立った動きはしないほうがいい―――彼が言う事はごもっとも。しかし、このままはいどうぞ、と引き下がるなんてことはできない。しかし、ルフィの登場で状況は一変する。やっぱり、うちの船長は頼りになる。彼には悪魔の実の能力以外にも不思議な“力”があるのかもしれない…人を惹きつける力が―――。
ケイミーを助けるべく走るルフィをハチが止めようとする。しかし、彼のほかの腕が見えてしまい魚人だとバレてしまった。
天竜人の男…チャルロス聖が放った銃弾がハチを貫く。
何が起きても、天竜人に逆らってはならない―――この島に入った時、確かにそう約束した。だが、友達が傷つけられて黙っていられる麦わらの一味ではない。彼は男を勢いよく殴りつけた。たとえ世界を敵に回そうとも、友達を仲間を守る…麦わらの一味とはそういうものだ。
殴り飛ばされた天竜人の男は床で倒れ、意識を失っている。いい気味だ。
「悪いお前ら、こいつ殴ったら、海軍の大将が軍艦引っ張ってやってくるんだった」
「ったく、俺が切ろうと思ってたのによ」
「ニュ~、お前ら、大変なことになったぞ」
「ルフィの事だから、仕方ないって」
それが合図となり、戦いが始まった。客は逃げ、天竜人は大将を呼べと叫んでいる。遅れて登場してきたブルックとウソップが追い打ちをかけるが、海軍が既にここをぐるりと包囲しているらしい。感情の読めない表情でローがそれを知らせてくれた。この諸島に本部の駐屯所があるらしい。
「ケイミー、じっとしててね」
「うん…名前ちん…」
「待て、鍵のない状態で開こうとすればそれは爆発する、その人魚の命はないぜ!」
そう教えてくれたのは赤いツンツンヘアーの男。彼の名はユースタス・キャプテン・キッド。ルフィと同様賞金首の船長だ。ローの手配書と並んでいたのでよく覚えている。
「お前が噂の“魔女”だな?」
彼の目はいかにも“悪”の目だと思った。ぎろりと睨みつけられれば、一瞬怯み上がりそうになる。
「…だったら何ですか」
「どんな奴かと思いきや、こんな間抜けそうな顔をした女とはな」
なんて失礼な男だろうか。初対面の女性に対して“間抜けそう”だとは。紳士の国ではあるまじき暴言だ。それに、折角変装までしていたというのに魔女だとばらされてしまった。まぁ、今更かもしれないが。
「誰だあいつ」
「ルフィ…あの人はユースタス・キャプテン・キッド、海賊よ」
「ふうん」
「名前、お前、本当に麦わら屋の仲間なのか」
「―――えぇそうよ」
「知り合いなのか???」
「いえ、まったく」
ちなみに、彼はトラファルガー・ローよ。そういうとルフィは彼にちらりと視線を向ける。彼というよりは隣のくまのほうが気になる様子。
「魔女―――名前、聞いたことがあるアマス、最近見つかったと…魔女!わたくしを守るアマス!!そしてこやつらを皆殺しにするアマス!!!」
突如見知らぬ女性に命令をされるが、命令される筋合いも無ければ、彼ら天竜人に手を貸すつもりなどみじんもない。舞台に立つ天竜人の女は銃をケイミーに向け、叫ぶ。
「命令を聞かなければ、どうなるかわかるアマスね?」
「あなた達の命令なんて聞く筋合いもない!」
ルフィがもう決断しているのだから。ならば、私はそれに従う。名前は杖を取り出し、銃めがけて魔法を放つ。
「エクスペリアームス!」
「―――っ何するアマス!!!!」
ああ、なんということ!魔法使いは我々天竜人の管理下にあるべき存在だというのに!野放しにしていたせいで言う事を聞かない!!女は狂気じみた叫び声をあげる。
「…許さないアマス……契約を無下にしたお前を許さないアマス……連れ帰って、しつけをし直さなければ――――ッ」
「契約?なんのこと」
「あの男はいい子に言う事を聞いているというのに…お前ときたら…もう許さないアマス」
女の言葉の意味が全く分からない。もしや、彼女の言う“あの男”とはもう一人の魔法使いのことだろうか。誰がこちらに来てしまったのかはわからないが、どうして彼は彼ら側にいるのか…彼女についていけばもしかすると出会えるかもしれないが、そんなの、死んでもごめんだ。
女は隠し持っていたもう一つの銃を取り出し、名前めがけて放つ―――かに思えた。
「―――!」
天竜人の女…シャルリア宮は気絶したのか、白目をむきながら力なく舞台で横たわっている。
すると舞台の壁が突如壊れ、その奥からやけにかっこいい白髪の男と巨人族の男が姿を現す。
「ほら見ろ巨人君、会場はえらい騒ぎだ…オークションは終わりだな、金は盗んだし…」
彼の手元には金の入った袋がひとつあった。どうやら彼は金を盗むためここにいたようだ。それにしても今のは一体何だったのだろうか。あの一瞬だけ、ゾクリと寒気すら感じた。彼はハチの知り合いのようで、陽気に声をかけてきた。軽くあたりを見回し、しばらく考え事をしている様子だったが、状況をようやく理解したのか名前たちに近づいてくる。正しくは水槽の中にいるケイミーに。
「ふむ、なるほど…」
「…あなた、何者ですか?」
「ただの老人だよ」
全然“ただの老人”には見えなかった。
少なくとも、ただの老人がこんな気迫を持っているはずが無い。舞台の上を見上げれば、キッドも、ローも、ルフィたちも動かずこちらの様子を伺っていた。その額にはじんわりと汗がにじんでいる。
「さて―――」
男がそう呟くと、ほとんどの者が一瞬で倒れていく。今、何が起きたのか。恐ろしい“何か”を感じ、無意識のうちに杖を握りしめる。そして、ピリピリと肌を刺すような痛みを感じた。
「その麦わら帽子は、精悍な男によく似あう―――」
会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ。そう言って、白髪の男は小さく笑う。