ある日の朝、ハリーはあの日記帳を開いて見た事実をロンとハーマイオニーに語った。名前は学年末試験の修羅場を迎えており、話しかける余裕が無かったのでその事実を知らないまま過ごした。時折ネビルが本を落とす以外は静かな部屋だ。ここは、特定の日にしか現れない部屋で、この部屋を知っているのはネビルと名前だけ。図書室では女子に囲まれたりと色々と面倒なので本気で勉強したいときはこの部屋を利用している。
「なぁネビル」
「……ん、どうしたの?」
「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど……ネビルの両親は、どうして聖マンゴにずっと入院してるの?」
「…友達に話すのは初めてかも……あのね、僕のパパやママ、例のあの人が活動していた時代に、ダンブルドア達と一緒に例のあの人と戦っていたんだ。死喰い人の1人に、ベラトリックス・レストレンジに……磔の呪文をかけられてさ……」
「……ごめん」
なんとなく、気になっていた事だった。いつかは聞こう、と思っていたがまさかこんなに重たい話だったとは。ネビルにとってはトラウマも同然の話をさせてしまったのだから、自分も家の事を少しでも打ち明けよう。名前は持っていた羽ペンを置き、静かに話し始めた。
母の名は、アカネ・カザハヤ。在学中はレイブンクローにいたが、卒業してすぐ家を飛び出し、外国人と駆け落ちをした。それで生まれたのが名前だった。アカネの将来は生まれた時から決まっており、卒業後は日本の魔法省に入ることになっていた。しかし、彼女は日本に帰ってくることなく卒業式の日、消息を絶った。アカネの両親は勿論、彼女が帰ってくるであろうと信じていた。家にはアカネの婚約者も待っていて、その日式を挙げるはずだった。日本の魔法族は近親婚が当たり前だったので、アカネの婚約者は少し年の離れた従兄である柊大和。現在名前と親しい従姉の彩の父親だった。本来、彼はアカネの夫になるはずだった。しかし、当のアカネは失踪し、“匂い”まで丹念に消し見つからないようにした。“匂い”を完全に消すには女性の場合、外国で子供を身ごもる必要がある。名前を身籠った時からアカネがどうなったのか、家族は既に検討がついていた。柊家との結婚は決まりごとだったので、婿を迎えるはずの姉が柊家に嫁ぐこととなったのだ。だから、名前はアカネが本当に愛していた男と駆け落ちをするために産み落とされた道具なのではないかと不安に感じている。仮にそうだとしたら、自分は愛されず生まれてきた事になる。現に父や母は何処にいるのかも分からない。だから家ではアカネは死亡したことになっており、名前も死んだと考えている。折角産んでくれたのに、親不孝者だと思われるかもしれない。だが、2人が名前の目の前に現れてくれるまでは、2人は死んでいると割り切るしかないのだ。
この話をしたのは、ネビルが初めてだ。全て吐き終えた名前は静かにネビルを見上げた。
「……そうだったんだ、そんな重要な事、ぼくに話して大丈夫だったの?日本の魔法族は……ばあちゃんが言ってたけど、秘密主義なんだろう?家の秘密をばらしたら、大変なことになるって……」
「それは建前だよ……確かに、この事を誰かに話したって事がおじいさまやおばあさまに知られたら、完全に夏休みの自由は無くなっちゃうかもね……もしかしたら、ダームストラングに転校させられちゃうかも。でも、ネビルだからこそ話しておきたかったんだ……おれって、おかしいのかな、親が生きていてほしくないって考えるのは」
寒空の中、揺り籠の中で眠っていた自分。母や父は自分を捨てた時、どんな気持ちだったのだろうか。父や母がいなくて当たり前だった昔と、今の自分は違う。こうして思うようになったのはホグワーツに通ったおかげでもあり、少し大きくなった証なのだろう。
「ううん……名前とは家の事情が違うから、あまり言えないけど……ぼくがそんなふうに捨てられちゃってたら、そう思うかもしれない……」
「なんか、今の一言で安心したよ……ロン達はさ、家族の話をいつも幸せそうにするからさぁ……なんか、おれおかしいのかなってずっと思ってたんだ」
「ロンは生まれた時から家族に囲まれてたからね、考え方が違っても無理はないと思うよ」
ネビルも物ごころがつく頃には既に両親は入院しており、家族と遊んだ記憶が無い。代わりに手厳しい祖母が育ててくれたそうだ。それでも、ネビルは休みになると聖マンゴへ行き、両親に会いに行くそうだ。
イースター休暇も過ぎ、勉強のストレスがピークに達した頃、部屋では事件が起きた。あの日記帳が消えただけではなく、部屋が見事に荒らされている。初めは小太郎がやってしまったのかとひやひやしたが、引き出しがそこらじゅう開かれ、鎖で繋がれている小太郎を見ると彼が犯人でない事は分かった。一体誰がこんな事をしたのだろうか。名前は唖然とするハリーを横目に杖を振り、部屋を片付ける。翌朝、グリフィンドール対ハッフルパフの試合は秘密の部屋の怪物によって中止に追い込まれてしまった。それだけではない、また、犠牲者が増えてしまったのだ。まさかハーマイオニーが犠牲になるなんて。名前の瞳はあの時のように黄色くなっていて、杖を振ってもしばらくは上手に魔法が使えなかった。流石に危機感を抱いたハリーとロンはハグリッドの元へ向かい、50年前の真実を聞き出しに向かう。名前はハーマイオニーの見舞いをしてから向かうことにした。
「おやカザハヤ、高貴なる君が、穢れた血のお見舞いかい?」
「失せろマルフォイ」
「おお怖い怖い、秘密の部屋の継承者様は恐ろしい方だ」
こいつは何処までも人を馬鹿にしたら気が済むのだろうか。もう一度決闘クラブが開催された暁には、マルフォイを吹っ飛ばして遣ろうと心に決める。出来れば今すぐにでも呪いをかけてやりたいところだが、ここは廊下だ。廊下で魔法を使えば減点されるだけではなく、折角自分に期待してくれている先生たちをがっかりさせてしまうことになる。目の前の私怨だけで行動すれば、後で大変なことになる……と、自分に言い聞かせてその場は耐え抜いた。
確か、ハリー達はハグリッドの小屋にいるはず。名前は小屋へ向かおうとしたが、小屋の前にいる人物を見つけ思わず驚く。どうしてあの人が、ここにいるのだろうか。
「―――ヒトシおじさん?」
「おお、久しぶりだね名前君、手紙を見てくれたようだね」
「…え?」
柏崎仁、彼は日本の魔法省の中で魔法動植物管理部の室長を務めている人物で、祖父達の部下にあたる。日本の魔法省が外に出ることなんて、外交管理部の人間や議長以外滅多にない事だった。そんなヒトシが何故、ここにいるのだろうか。それに、手紙とは一体何のことやら。突然やってきた生徒にダンブルドアは目を丸くさせるが(何しろ今の時間、城の外に出る事は禁じられているからだ)その人物が名前だと分かるといつもの優しい表情に戻る。
「おお、君は話で聞いておるよ、ゲンの家の子だね?」
「はい、えっと……大臣、一体何の御用で…」
「うーむ、君も知っているだろう?例の騒動についてだ……生徒の君が心配する必要もないよ、だが、ゲンは少し心配症のようだ、彼を送ってくるとはね」
コーネリウス・ファッジはイギリスの魔法省大臣だ。おじがヒトシをホグワーツに送ってきたことと、自分が何の関係があるんだろうか。ふと、隣を見ると見覚えのある顔がそこにはあった。
「おや……君はドラコと同級生の……」
「…どうも」
彼はルシウス・マルフォイ。ドラコの父親で嫌みったらしい顔は親子そろって同じ。ここにルシウス・マルフォイがいる理由がまったく見当がつかない。
「えっと、ヒトシおじさん、今さらなんですけど手紙って……?」
「届いていない?まさか…一応、頼んでおいたんだけどなぁ……まぁこうして会えたんだから、別にいいか」
……相変わらずこの人は軽いなぁ。彼の部屋は一度見せてもらったことがあるが、ありとあらゆる書類や書籍、何かのサンプルの入った瓶がそこらじゅうに散らばっていて、すぐ片づけてもこうなるのだという。とてもおおざっぱな人だが、名前にとっては気兼ねなく接する事の出来る優しいおじさんだ。昔、彼に無理を言って外界の動物園に連れて行ってもらったのは良い思い出である。
「名前君に手伝ってもらおうと思ってさ」
「え……?」
「ヒトシ、一体学生である彼に何を手伝わせるつもりなんだ?」
「大臣、彼は蛇舌ですからね……あー、こっちはパーセルマウスでしたっけ」
「……相変わらず、日本の魔法族は変わった方が多いようですな」
「マルフォイさん、これは日本じゃ当たり前ですよ?カザハヤの家の者は全員蛇舌ですから。ちなみに私は猫舌でしてね……猫舌って言っても、熱いのが弱いとかそっちのほうじゃないですよ」
ダンブルドアには受けたが、大臣とマルフォイには受けなかったようだ。見事に滑ったヒトシのフォローに名前は向かう。
「ヒトシおじさん、で、おれは何をすればいいの?」
「蠎蛇の子供……あー、バジリスクの仲間って言うべきですかね、この子を使って秘密の部屋の怪物を探して貰うのさ」
ヒトシは大きなカバンから1つの黒いケースを取り出し、それを全員に見せた。
「何故、日本にいる君らがホグワーツの事情を知っているのかね?」
何が気に食わないのかは分からないが、ルシウス・マルフォイは何がある度に口をはさんでくる。それらに挟まれているハグリッドは何故かおどおどしている。
「ふむ、それはわしが名前に頼んだからじゃよ」
ぎろり、と一瞬睨まれたような気がしたがきっと気のせいだろう。
「基本的に外国の事にはうちは干渉しないんだけどね、もしバジリスクだったらと思ってね……種の保護は大切な義務さ、それこそ、人間が彼らの住処を奪ってしまったのだから、我々は新たに彼らが安心して過ごせる場所を作らなくてはならない義務があるんだよ」
普段はおおざっぱでだらしないヒトシだが、仕事に対しての想いは相当のものだ。
「で、カシワザキは10歳そこそこの子供の手を借りにわざわざホグワーツに来たと?」
「そんな感じです、マルフォイさん」
「ふん……彼がパーセルマウスねぇ……」
「蛇舌は日本の魔法族の誇れる所ですよ、なんたって蛇は主人に従順ですからね……でも、猫は気まぐれだから、いくら会話が交わせたとしてもなかなかうまくいかんですよ、ははは」
魔法動植物管理部の一角にはヒトシの愛娘である三毛猫が2匹いる。そう言えば、あの部屋が汚い原因はあの2匹だと言うが、きっとそれだけではないだろう。
「これでもし、犯人がバジリスクだったらハグリッドが犯人ではないでしょう、彼は蛇舌じゃないですからね」
「ほう、だったら誰が犯人だというのだね?仮にバジリスクだとしよう……操っている人間は?ホグワーツでパーセルマウスの人間は現在、ポッターとカザハヤだと聞くがね……」
きっと、ドラコ・マルフォイが父親にあの日の事を話したのだろう。ルシウス・マルフォイはまるで2人が犯人なんじゃないのか、と言わんばかりの視線を送ってくる。相変わらず嫌みな親子だ。
「あの、話を切ってすいません、少し気になって……ハグリッドが犯人って、どういう事ですか?」
「君は知らんだろうが、彼は50年前、似たような理由でホグワーツを追放された身だ。50年前、ホグワーツに怪物を放った罪でね」
「違うんです!アラゴグは……!」
「黙りたまえルビウス・ハグリッド」
「……ハグリッド、大丈夫じゃ、日本の魔法省が動いてくれたのじゃから」
つまり、今回のアレもハグリッドのせいだと疑いをかけている訳か。
「これから、彼をアズカバンへ連行するところだ」
「え……!」
「まだ連行されるとは決まっておらんよ、コーネリウス」
「何故それをお前が決める?私は大臣だ!さぁ、ヒトシ、用件を済ませたまえ、わざわざゲンが送ってきたのだから何かあるのだろう?」
ヒトシはカバンから大きなケースを取り出し、名前を手招きする。
「わ……これって、蠎蛇ですか?外に連れ出してもいいんですか?」
「大丈夫、上には許可はとってあるよ」
「一体何を……うわ、蛇…!?」
黒いケースの中には40センチ程の白い蛇がいて、シューシューと大臣に威嚇音を発している。あのマルフォイですら後ろに後ずさった程だ。
「なぁ、名前君、この子は今なんて言ってるんだい?」
「あーえっと、寝ているのに起こしやがって…って言ってます」
「まさか、本当にパーセルマウスだったとは」
「疑っていたんですかマルフォイさん」
「……さっさと始めたまえ、私は忙しい」
忙しいなら、こんなところにいないでどっか行けばいいのに。ルシウス・マルフォイの見えない所でべーっと舌をだしていると、ダンブルドアに肩をとんと小突かれた。どうやら全部見られていたようだ。だが、顔は楽しそうに笑っている。
「……蛇舌、パーセルマウスだと言っていたが、本当の事だったのかね……」
「大臣、何故こんな時に冗談を言わなくてはならないのですか」
ははは、とヒトシは笑うが大臣はぎょっとした表情で名前を見つめる。大臣が驚くのも無理はない。此方の世界では蛇語はあまりいい印象を与えない。例のあの人と同じ言葉を使う子供なんて、恐怖の対象でしかない。だが、名前は仮にも日本の魔法界を統べるカザハヤの子。大臣は動揺を悟られないよう必死にその場を取り繕った。それをダンブルドアは微笑ましく見つめている。
「っで、この蛇が一体何の役に立つと言うのだね?」
「ははは、この蛇、ですか……この子はただの蛇じゃないですよ、大人になったら最大8メートル程にはなる大蛇の子供ですよ。でもご安心を、見ても死にはしませんし、猛毒もありませんよ。ただ、噛まれるとちょっと1週間ぐらいは寝込みますが……」
1週間がちょっとなのだろうか、と疑問に思ったが話に切りこみをいれるのも悪かったので何も言わないでおいた。どん引きの大臣を気にもせず、ヒトシはケースの中から蠎蛇の子供を出してやると、早速名前の所へ近づいてきた。
『どう?外国の空気は』
『う~ん、まあまあかな……それよりも寒いぞ』
日本の蠎蛇は暖かい地方に住んでいる為、寒さには弱いのだ。名前は彼のリクエスト通り、腕にまきつかせてやった。ひんやりとした蛇の肌触りにぶるりと身震いをする。どうやら彼は此処で満足したようだ。
「ほう、今のは蛇語かね」
「はい」
「ともかく、その蛇を使ってどうするつもりだ?犯人でも見つけるつもりなのか?」
「その通りですよ大臣。日本の蠎蛇……バジリスクの仲間ですが、バジリスクとは違い人間に従順で、温厚な動物ですから、きっと今回の事も喜んで受けてくれるでしょう。勿論ご褒美をあげるのを忘れてはいけませんよ」
彼らは肉食ですからね、とカバンの中から生きた鼠を掴みそれを大臣に見せ笑う。
「まさか、それがご褒美だなんて言うんじゃないだろうね」
「あたりまえですよ、生きたまま与えないと彼らは食べてくれませんからね、いくら日本国内で管理されていたとしても半分は野生ですから。さてさて、名前君、その子に頼んでみてくれないか、君の仲間がここら辺にいないかどうかを」
ヒトシはこの蠎蛇の子供にバジリスクを探させるためにやってきたようだ。名前は蠎蛇の子供にそれを頼むと、ご褒美をいつもの倍にする約束で交渉成立した。後ろを振り返るとハリー達がこっそり此方をついてくるのに気がついた。向こうもそれに気がついたようで、小さくガッツポーズをされた。頑張ってハグリッドのアズカバン行きを阻止してくれ、という意味だろう。
腕からしゅるしゅると身体を伝い降りて行く。大臣は蛇が怖くて仕方が無いようで終始ダンブルドアの後ろに隠れ、此方を見ていた。ルシウス・マルフォイは黙ってあとに続く。一体あの顔で何を考えているやら。
彼に城中くまなく探してもらったが、結局見つからず、此方の気配を察して奥に逃げたのではないかという結論に至った。数週間後またホグワーツにやってくると約束するものの、ハグリッドはそのまま連行され、ダンブルドアはルシウス・マルフォイの策略によってホグワーツを追い出されてしまった。彼は初めからハグリッドにではなく、ダンブルドアを追い出すためにやってきたようだ。名前も何度か頼んだが子供一人ではどうする事も出来ない事だった。祖父に頼もうとも思ったが、あの人は元々ダンブルドアが嫌いなので返って祖父を喜ばすことになるだろう。
2人が去って2週間、ドラコ・マルフォイは自分の父がダンブルドアとハグリッドを追い出した事を鼻にかけ、クラッブとゴイルと共に我が物顔でホグワーツを歩く。どうしてもそんな態度のマルフォイが気に食わないので、名前はこの日から杖を使わなくとも魔法をかけられるように勉強の合間、無言呪文の練習を始めた。杖を使えばすぐにばれてしまうので、そうならないためにも、堂々とマルフォイを吹っ飛ばしたいが為に練習に打ち込んだ。瞳が大人しくなってしばらく経つおかげで魔力コントロールもなんとなくだが分かってきた。
そんなある日、名前とネビルが広間に向かって歩いていると目の前を歩くマルフォイ達の姿が目に入った。汚い物を見てしまったとばかりに名前は目をこすった。魔法薬学の授業が終わり、鍋を片づけ始めた時、ダンブルドアの埋め合わせはマクゴナガルでは長く持たないだのなんだの好き勝手に言っているマルフォイが目に入る。お前は人の事をとやかく言えたような力をもっているんだろうかと聞きたい。父親が権力者だからと言って、子供がそうなるとは限らない。ふと、魔法薬の香りが横切る。スネイプ先生だ。
「先生が校長職に志願なさってはいかがですか?」
マルフォイは大声でスネイプを呼び止め、にやりと笑いながら冗談なのか、本音なのかもわからない言葉を放った。
「これこれ、マルフォイ」
スネイプの薄い唇がほのかにほころぶ。
「ダンブルドア先生は、理事たちに停職させられただけだ。我輩は、間もなく復職なさると思う」
「さぁ、どうでしょうね」
ああ、あのにんまり顔のマルフォイをぶん殴ってやりたい。
「先生が立候補なさるのなら、父が支持投票すると思います。僕が、父にスネイプ先生がこの学校で最高の先生だと言いますから……」
シェーマスが大鍋にゲーゲー吐く真似をしていたのに気付かなかったのは幸いだ。
「穢れた血の連中がまだ荷物をまとめていないのにはまったく驚くねぇ」
耐えろ、耐えるんだ。名前はペンケースを握り、ぎりりとくいしばる。
「次のは死ぬ。金貨で5ガリオンかけてもいい、グレンジャーじゃなかったのは残念だ」
この時、終業のベルが鳴ったのは幸いだった。ロンが最後の言葉を聞いたとたん、椅子から勢いよく立ちあがってマルフォイに近づこうとしたが皆が大急ぎでカバンや本をかき集める騒ぎの中、誰にも気づかれずにすんだからだ。
「……許せない、あいつ……やらせてくれ!杖なんかいらない!素手でやっつけてやる……!」
怒り狂うロンを抑えるディーンとハリー。名前は理性と怒りの間で葛藤した。マルフォイは名前とハリーを怒らせる天才だ。ここまで来ると、声も出ない。
「急ぎたまえ。薬草学のクラスに引率して行かねばならん」
スネイプが先頭のほうから生徒の頭越しに怒鳴る。みんなぞろぞろと2列になって移動した。移動中、名前はどうやってマルフォイを懲らしめてやろうか策を巡らせる。いつしか絶対、それ相応の思いをさせてやる、と心に決めて。