それにしても、この試験、体力のない私にはかなりハードな試験内容だ。頼もしい3人の仲間たちのおかげでなんとか乗り切ることが出来たが、何が一番きつかったかと言うと、森にいた生き物だ。虫が大の苦手なので、巨大な虫の宝庫だった死の森は、その名の通り、私にとっては死の森だった。試験の後半、カブトさんたちと一緒に塔へ向かっている最中が酷かった。巨大な虫を見つけるなり無意識のうちに木遁を炸裂させてしまっていたので、無駄にチャクラを消費してしまった。そのおかげで、折角あった兵糧丸もすでに底をついてしまった。なんとも情けない理由だ。きっと、テンゾウには怒られるに違いない。苦手なものを克服するって、本当に大変なこと。もう、こればかりは前世でも超がつくほど苦手だったから、克服するのも難しそうだ。魔法薬学の授業で虫を切り刻む作業が絶対に発生するのだが、そのたびに私はいかに視界をなるべくシャットアウトして虫を切り刻むかに勤しんでいたっけ。
「はあ~ほんと私スタミナ無いんだなぁ……」
「あれだけ術を発動させていればな……」
「虫が苦手で……ほんとに駄目なの……」
「そういえば、名前ねえちゃんはゴキ」
「ストーーーーップ、頼む、イメージするのもキツイんだそれは」
「わたし、その気持よく分かるな、実害は無いんだけど、見た目が、ちょっとね」
「……そう、見た目が……その、なんていうか、魂にダメージを与えてくるっていうか」
「おい、くだらない話してないで早く行くぞ」
くだらない話かもしれないが、私にとっては大切な話だ。
とりあえず、今はこの試験を無事終わらせることを優先しよう。私たちは建物の中に入り、巻物を開いた。イルカ先生が現れたのには驚いたけれども、久しぶりのイルカ先生になんだかホッとしてしまったのも事実。このとき、アカデミーの先生も素敵だなぁ、なんて少し思ったりもした。イルカ先生って、優しくて、お茶目で、癒やされるよね。
「あ……テンゾウ!?」
「やあ名前、頑張ってるみたいだね」
次の試験まで少し休憩時間があったので、私はカカシ先生を探すべく会場をうろついていた。うろついていると、見慣れたお面の人物と遭遇した。暗部服を着たテンゾウだった。テンゾウの他にも2人ほど、暗部の人がいたが、見知らぬお面だ。私が声をかけると、何やら後ろの2人にサインを送り、テンゾウだけが残った。なんだか話の邪魔をしてしまったようで申し訳ない。
「久しぶり~!」
「第2試験はどうだった?」
「大変だったよ……あ、そうそう、私カカシ先生を探してて、テンゾウ知らない?」
「カカシ先輩なら、火影様達と一緒にいたけれども……」
「そっか……私、先生に報告しなきゃいけないことがあって、死の森で、私たち、大蛇丸っていう人と会ったの」
「そっか……え、お、大蛇丸!?」
その名前を聞いて、テンゾウは驚きの声を上げた。しかも、勢いよく壁に身体をぶつけて。あたりをきょろきょろと見回し、何らかの術をかけた後、テンゾウにすぐ近くの部屋に引っ張られてしまった。突然のことだから、流石に驚いた。
「もー何!?」
「何はこっちのセリフだよ!?」
「どうしてそんなに驚いてるの……あ、やっぱりやばい人なんだね……あのセクハラジジイもがっ!」
慌てて口を抑えられる。この呼び方に、そういえばシスイくんもいちいちヒヤヒヤしてたっけ……。
「……ともかく、君の班員はその大蛇丸と遭遇して、無事だったのかい?」
「うん……サスケくんが、変な呪印をつけられてた」
「え!?」
続けてナルトくんの封印術の話をしようとしたが、テンゾウはサスケくんが呪印をつけられた事に対してかなりまずいと感じたのか、話を聞くなり一瞬でその場からいなくなってしまった。
そして私も、すぐに次の試験が始まってしまうため、私は一旦サクラちゃんたちの待機している場所に走る。
「どこ行ってたのよ!?探したのよ!?」
「ごめんねサクラちゃん、知り合いに会ってて……ほら、私、忍術の先生が別に居るって言ったでしょ?そのひと」
「そうだったのね、遅いからどうしたのかと思ったわ」
「ごめんごめん」
サクラちゃんに謝りつつ、下忍たちの待機している列に並んでいると、ようやく次の試験への説明が始まった。本来であれば第3試験が実施されるはずだったが、おもったよりも第2試験を突破した者が多く、ここで第3試験へ向けての予選を急遽行われる事となった。この予選を通過しなければ、次の試験には挑めない、というワケだ。
体調の悪いものや、やはり辞めたくなった者はここで試験を辞退することができるそうだ。サスケくんが心配なサクラちゃんは、そんなサスケくんのために体調を気遣ったが、ここで辞退するような性格ではないことぐらい、彼女も分かっているはず。それでもあえて声をかけているのは、本当に心配だからだ。ナルトくんも、サスケくんも、そして私までもが倒れ、あそこまで危機に瀕した第7班は初めてだったと思う。誰も失いたくない、なにかあってからでは遅いのだから。サクラちゃんの気持ちは、痛いほどわかる。ただ1人、ナルトくんはサスケくんが今どういう状態にあるのかを知らないので、サクラちゃんが体調の悪いサスケくんを必死に止めている、という風に見えているだろう。これも、サスケくんたっての希望だった。ナルトくんには、あの痣……呪印のことは、黙っていてほしいと頼まれているからだ。私は、涙をにじませてサスケくんを止めようとするサクラちゃんの肩に、そっと片手を乗せた。
「サクラちゃん……サスケくんは、引かないだろうね、多分。でも、今度は大丈夫だよ、ここには火影様達もいる!」
「……で、でも」
「ここには超エリートな医療忍者の人たちも待機してる、だから大丈夫!」
「……名前ちゃん」
「だから、私たちは全力で戦って、全力で応援しよう、ここで引き下がるような、第7班じゃないよね!」
「おう!当たり前だってばよ!」
ここに居る上忍……カカシ先生たちだって、もしもの事態に陥っても、なんとかしてくれるに違いない。先程までテンゾウもいたのだから。ようやくサクラちゃんも、サスケくんが試験を続行することに対して気持ちの整理がついたのか、やっといつもの表情に戻ってくれた。サスケくんは、ナルトくんとも戦いたい、そういうと、ナルトくんの表情がきりっと引き締まったような気がした。それは、サスケくんがナルトくんをライバルだと認めている証のようにも感じた。
と、ここで自主辞退する者が1人現れた。あのカブトさんだ。怪しい、怪しさ満載すぎる。カブトさんが去っていく間際、無意識のうちに彼を睨みつけてしまったようだ。その様子を見ていたカカシ先生からは意味深な表情が返ってきた。
予選での一番最初の試合は、サスケくんの呪印の関係もあったのか、サスケくんと赤胴ヨロイという男が対戦することとなった。対戦の直前、カカシ先生はサスケくんに写輪眼を使うなと忠告を入れた。呪印は、サスケくんのチャクラに反応して、それを無理やり引き出そうとしてくる仕組みらしい。その呪印が暴走すれば、命に関わるからだ。
「や~~~っぱり、カカシ先生かっこいい!!」
「……名前ちゃんの趣味って変わってるって言われない?」
「も~サクラちゃんにはまだ早いかな~?」
呪印が暴走すれば、カカシ先生が止めに入ってきてくれるようだ。それを背中で語る男!あ~ほんとにかっこいい!目をハートにしていると、奥で白けた目を向けている少女と目があった。そう、音忍の、確かキンという少女だ。すぐ近くには彼女の班の仲間もいて、その後ろには彼らの上忍師が控えている。
「あなた、キンちゃんだっけ、恋愛話に興味ある口かな~?」
「ちょっと名前ちゃん、なに敵に話しかけてるのよっ」
「ふん、お前らのところだけ4人なのは、雌豚共が能天気だからのようね」
「キンちゃん……あなた……女の子の友達が欲しくて羨ましいのね……ガールズトーク、楽しいよ?」
「なっ!?馬鹿にするのも大概にしろっ」
どう見ても、これは私が彼女を煽っているように見えただろう。大きな声を上げたキンは、彼女の上忍師にひと睨みされ、大人しくなった。なぜ騒ぎを起こしたのか……それは、音忍と大蛇丸はつながっていて、何らかの動きを見せてくるかもしれないと警戒しているからだ。それを、他の木ノ葉の上忍たちに伝える必要がある。騒げば、その分視線はそちらへ向かう。視線が向けられている以上、下手な動きは出来ないはず。私のこの意図に、どうやらシカマルくんはもう気が付いたようだ。
「名前さんって意外に頭いいっすよね」
「いや~シカマルくんには負けるけどね~」
そもそも、意外ってなに、意外って。
言い返そうとした時、もうシカマルくんは隣にいなかった。
予選の初戦は、サスケくんが見事勝利を掴み取った。しかも、中忍試験の直前、リーくんから受けたすごい体術をコピーし、それを独自アレンジしたもので。あの短期間で技をコピーし、応用させるなんて、流石はうちは一族。おまけに暴走しかけた呪印を、己の気力だけで押し込んだのだから。しかし、流石のサスケくんでも今回は呪印がやはりキツイのか、苦痛の表情を何度も浮かべていた。みんな、サスケくんの戦いを見ながら、彼の実力を測っているようだ。今年のルーキーと名高いサスケくんの試合は、誰もが目を逸らさず見つめていた。去年のルーキーだったネジくん然り。
「あれ、サスケのやつ、首にへんな痣なかったか?」
「うーん、なんだろうね、気の所為だよ、それよりもナルトくん、君は自分の心配をしたまえ」
「う、うるせぇってばよ!」
なんとかナルトくんの気をそらす事に成功したようだ。サスケくんがカカシ先生といなくなった後、第2試合が行われた。音忍のザクとシノくんとの戦いだった。先の戦いで、サスケくんにザクは片腕を折られているので、どう戦うのかは気になる。しかし、戦いは呆気なく終わった。やはりシノくんは油女一族なだけあって、強かった。体中にいる特別な蟲を使って戦う彼ら一族だが、正直、私にとっては絶対に戦いたくない相手ナンバーワンとも言える。もう、虫が無理すぎる。本当に無理すぎる。死の森ですらでかい虫と遭遇して木遁を何度も炸裂させた程だ。そのおかげでチャクラがかなりなくなったと言っても過言ではない。
「カカシ先生、サスケくんは大丈夫なの!?」
「ま、大丈夫だ、今病院でぐっすりだ……」
試合が終わった頃、カカシ先生がこちらにやってきた。どうやらサスケくんの呪印はなんとか封印出来たようだ。
サスケくんにはきっと、暗部の護衛がついているのだろう。何しろ大蛇丸はサスケくん自体を狙っているのだから。あんな奴に狙われているのだから、暗部の1人や2人、つけておかないとおちおち眠ることも出来ない。
「名前、お前、大蛇丸になにか言われたか?」
「…木ノ葉の里を抜けたくなったら、サスケくんと一緒に自分を探しに来いって言われました、すごい、直接的なスカウトでした」
「やっぱりか……いや、さっきその人物とばったり出くわしてしまってな……お前の事を言っていたから、もしかしてと思ってね」
先程大蛇丸とばったり遭遇だなんて、いくらカカシ先生でも肝が冷えただろう。きっと、その場には負傷したサスケくんもいたので、色々と考えたはずだ。
「な!?名前ちゃん、そんなこと言われてたの!?」
「里なんか抜けねぇよな!?名前ねえちゃん!?」
「抜けるわけないじゃない、ここには、私の大切な人たちがいるもの、私にとっては、サクラちゃんや、ナルトくんたちが家族であり、仲間だからね」
にこ、と笑うと2人はほっとしたように笑い返してくれた。カカシ先生はまだなにか思うことがあるようで、しばらくじっと私を見つめていたが、そのまま何処かへいなくなってしまった。
次の試合はつるぎヨロイとカンクロウという人たちの戦いだった。カンクロウといえば、砂隠れの里の忍の1人で、我愛羅というひょうたんを背負った少年の仲間だった気がする。最終的に彼が勝利したのだが、その際、彼の能力が明らかになった。実はカンクロウは傀儡師で、彼が背中に背負っていたものが彼本体だったということだ。
第4回戦は、なんとサクラちゃんといのちゃん対決。恋のライバル同士の戦いだ。ふたりとも一歩も譲らず、最後は引き分けで2人の戦いは幕を閉じた。ちなみに第5試合はテンテンちゃんと、テマリというこれもまた砂の忍の1人だった。この戦いは正直、テマリの一方的な攻撃によって、あっという間に終わってしまった。テンテンちゃんも十分強いのだが、相性が最悪だった。テマリの主な攻撃は風……風遁系だ。テンテンちゃんの攻撃は武器が主流で、すべての武器が吹き飛ばされ、一瞬のうちに終わってしまった。吹き飛ばされ、ボロボロになったテンテンちゃんをリーくんが漢らしく受け止めた。その後、砂の忍達とバチバチ火花を散らしたその姿はとてもかっこよかった。
次の試合はシカマルくんとキンだった。この2人の場合は、一度戦っているので、頭脳派のシカマルくんが影真似の術を成功させ、彼が勝利をつかんだ。
続いて、ナルトくんとキバくんの戦いが始まった。キバくんとパートナーの赤丸ちゃんとのコンビネーションでナルトくんを追い詰めたが、この短い間で、ナルトくんはかなり強くなった。苦手だった忍術を使い、それを応用してみせるまでに成長したのだから。それを見て、アカデミー時代一緒に学んでいた仲間達は関心し、それと同時にナルトくんの成長速度に驚いた。この戦いは、ナルトくんが勝利したが、キバくんもなかなか強かったと思う。それでも、やはりナルトくんの成長速度は素晴らしいものがある。大蛇丸になんらかの封印術をかけられているのに、普通に戦っていたのだから。そういえば、カカシ先生たちにはまだナルトくんの封印術についてまだ話が出来ていなかった。いつ話そうか……と、悩んでいた時、自分の名前が呼ばれてしまう。
「次、楠名前 対 山本マコト」
ああ、ついに名前を呼ばれてしまった。
山本マコト……彼は、木ノ葉の忍で、カブトさんたちと班を組んでいた人物で、私達と同様、フォーマンセルの珍しい班だ。もう彼以外、班のメンバーはいないので彼を応援する声はなく、とても静かだった。
「……お前は……孤児のくせに……生意気なんだよ……のうのうと、幸せそうに暮らしやがって」
「……え、なに突然」
対面するなり、吐かれた言葉はこれだ。
「同じ孤児院で育ったうちの1人……そういえば、わかるか」
「……!君も、もしかしてあそこの……!」
あの日以来、同じ孤児院の子たちを見ていなかった。彼らが何処かへ連れて行かれて、姿を消してから、もう10年以上経つ。しかし、まさかこんな場所で、そのうちの1人と出くわすとは。
「……才能に恵まれ……あの方にも……目を止められ……!」
「……」
ああ、これは、一方的な妬みだ。私は彼から向けられた殺気の中から、彼の叫びのようなものを感じ取った。
「試合、開始!」
戦いの合図が出るなり、マコトという少年は素早く印を組み、何かを口寄せした。もくもくと立ち上がる煙の中から現れたその生き物に、その場にいた女子は一斉に悲鳴を上げる。
「きゃあああああああああ!!!あ、あ、あれって!!!!」
「ど、どうしたってばよサクラちゃん?!」
「ななななナルト、あれって……あれってもしかして……!!」
「うっわ、キモいな」
上から、動揺するサクラちゃんの声、そしてなぜこんなにも女子が悲鳴をあげたのかわからずにぽかんとしているナルトくん、そしてシカマルくんの声が聞こえてきた。
「お前が“これ”を苦手としていることは調べがついている……さあ、どう戦うかな」
口寄せの術は、高度な忍術だ。その中でも、忍獣などの口寄せには、契約が必要となる。つまり、心を通わせ、相手に認められる必要があるということ。心を通わせることができるということは、相手に確かな“意思”があり、“思考”することのできる、高度な頭脳を持った生き物ということになる。
「……あ……あ……これって……」
なんて、最悪な敵だろうか。いまだかつて、こんな最悪な手法をとってきた敵がいただろうか。目の前に現れた、その漆黒に輝く巨体に、長い触覚、そして……もう説明は不要だろう。この世で最も苦手な生き物が、今、私の目の前にいた。もう、いつ気絶してもおかしくはない程、私は気が動転している。
「ゴゴゴゴゴっ、ごきっ……!!!!」
涙が溢れて来るのを感じる。そして、その漆黒の生き物が動くたびに、周りからは悲鳴が響き渡る。なんて恐ろしい忍術だろうか。
「…名前、しっかりしろ!!」
「……か、かかし……せんせい……っ」
「そいつはただの虫だ、口寄せされた、でかいゴキブ」
「いやああああああ」
彼は、油女一族ではなかったが、虫を操る特技を持っているようだ。黒光りしている巨大な身体に不気味な触覚が2本生えているこの生き物は、彼が造ったらしい。説明を一切求めていないのに、わざわざ詳細を説明してくれた。こんなクリーチャーが家に出てきたら、気絶する自信しかない。今、2本の足で立てているのも奇跡。なんとか耐え抜いている、そんな状況だ。
「さぁ……覚悟しろ……楠名前!」
「……!!」
それからよく覚えてないのだが、気がつくとあたり一面が森みたいになっていて、さらに建物がめちゃくちゃになっていた。マコトとかいう少年は、木の中に閉じ込められ……というより、木の中に顔だけを残して埋められていた。あの恐ろしいクリーチャーも、木遁で串刺しになっており、ああ、また暴走させてしまったのかとすぐに悟った。またテンゾウに怒られちゃうよ。何回怒られるんだろう、この試験で。
「勝者、楠名前!」
「……」
「……」
すげーと誰かが言っていた気がするが、おそらく砂の忍の1人だろう。あたり一面が森みたいになってしまい、これを戻すのに忍術を使う必要がありそうだ。火影様と目が合ったので、てへ★とお茶目に笑うと火影様が大きくため息を吐いた。
「名前……お前、豹変するタイプだったのネ……」
気絶しているマコトが運ばれているのを横目に、カカシ先生が声をかけてきた。
「え、豹変してました!?」
「うーん、おぼえてないのかー」
「あ……あはは……もう、虫、ほんと、苦手で……我を忘れないようにします……今後は…」
確かに、すごい殺意を持って挑んだと思う。あの巨大なゴキに対しては。もはや殺意しかなかったと言っても過言ではない。その時の記憶はあまり無いのだが、カカシ先生曰く、めちゃくちゃ口が悪かったらしい。どんだけ情緒不安定だったんだ、私よ。
今回は、流石にひどい状態にしてしまったので、この会場を整えるために配備されている中忍の人たちを手伝うことにした。そして、責任を持って木遁と土遁を使って会場を整備した。この会場がめちゃくちゃになってしまうことは別に珍しいことでも無いらしい。元通りに戻すまでに少し時間がかかってしまうかなと思ったが、何人かでやったので思ったより早く終わらせることができた。もしかしたら、私は大工にもなれるのかもしれない。
「名前ねえちゃんのあれ、久しぶりに見たってばよ」
「あはは……奴がナルトくんの部屋に出てきたときかな?そういえばそんなこともあったね」
「だからオレってば、名前ねえちゃんだけは怒らせないようにしようって心に決めてるんだ」
「……ナルト、それはオレも思うぜ、女ってこえーな」
2階に戻るなり、ナルトくんやシカマルくんに色々と言われてしまった。
「木遁って便利なのね~」
「おいいの、その反応ちょっとずれてねぇか?」
「え~そう?実際そうじゃない、家とかも建てられるんでしょ!?」
「多分、やろうと思えば……」
「なにかあったら、名前にお願いしよ~と」
リフォームとか、気兼ねなくお願いできるってことよね~。いのちゃんの言葉に苦笑を漏らす。
虫を相手にすると豹変するという一面が明らかとなった私は、木ノ葉の人たちに色々と言われながらも次の試合を見守るべく、土遁で作った椅子に腰を下ろす。次の戦いまで少し待ち時間があったので、ぼーっとしていたら砂の忍に声をかけられた。
「便利じゃん、それ」
「あー、カンクロウくんだっけ?いいよ、はい」
めちゃくちゃ消費したチャクラは、兵糧丸のおかわりをもらって補ったからもう普通に忍術を使うことができるようになった。私はもう一つ、土遁でベンチを作ってあげた。
「あいつらの中だと、あんたが一番年上に見えるけど、アカデミーの成績悪かったの?」
と、声をかけてきたのはテンテンちゃんを負かしたテマリだ。悪意が若干込められていない気もしないが、とりあえず正直に答えることにした。別に隠す必要なんてないのだから。
「成績が悪かったっていうか、私がアカデミーに入学したのって、14歳の時だったから……」
「14!?遅すぎじゃん!?」
「ホントはケーキ屋さんになるつもりだったんだけど、まぁ、今はこうして忍者してるの」
「へえ……」
「ねえ、風の国にさ、激辛って名前の付く喫茶店とか知らない?」
結構前、ダンゴさんのところでお世話になっていた時、彼が面倒を見た孤児の1人が風の国で喫茶店を経営している事を教えてもらったことがあったが、ふと、その事を思い出して聞いてみることにした。
「激辛って……あの激辛か?確かに知ってるが、あんた、風の国に来たことがあるのか?」
「行ったことはないけど、私が昔、お世話になっていたお店の人がいるんだけど、その人が面倒を見ていた人が、風の国で激辛っていう名前がついた喫茶店を経営してるらしくて」
「有名と言えば有名じゃん?」
「店は小さいが、人はそれなりにいたと思うよ」
「へえ~そうなんだ!行ってみたいなぁ」
こいつ、呑気なやつだな。カンクロウくんとテマリさんの横顔には、たしかにそう書いてあった。でも、その店に行ってみたいのも嘘ではない。本当はケーキ屋さんになりたかったんだから。私たちが雑談をしている中、あの赤毛の少年はこちらの話に見向きもせず、向こう側を見つめていた。彼の目には、何が写っているんだろうね。
次の試合は、ヒナタちゃんとネジくんとの戦いだった。ヒナタちゃんといえば、日向家の宗家……ネジくんはそれの分家に当たる。日向という一族を守るため、分家のものには、特別な呪印が施されているのだという。額当てに隠された、ネジくんの額には、その印が刻まれていて、彼はそれで苦しんでいるらしい。宗家を恨んでいるとの噂だ。
日向一族の使う、特殊な体術……それを受け、ヒナタちゃんはネジくんに負けてしまったが、心は、負けていなかったと思う。途中、彼女の心は挫けそうになっていたが、ナルトくんの一声で、彼女の表情は劇的に変わった気がした。ナルトくんには、人の心を突き動かす不思議な力があると思う。私も、一緒にいてそれを感じるからよく分かる。ヒナタちゃんが負けたところでなおも、ヒナタちゃんの一言で激昂したネジくんを抑えるべく、それぞれの班の上忍師たちが彼を止めに入ったのには驚かされたが。それは、ヒナタちゃんがそれだけ命の危険にあるという状況だったからのようで、担架ですぐさま運ばれていく。彼らは木ノ葉のエリート医療忍者たちなので、きっと、ヒナタちゃんを元気にしてくれるだろう。
ヒナタちゃんが運ばれて少しして、次の試合が再開された。次はリーくんと、我愛羅という砂の忍の対戦だ。リーくんは体術に特化した少年で、途中、我愛羅がかなりの強敵だと判断し、ガイ先生が彼の足につけられた重りを外すように指示した。恐ろしく重たい重りを常につけていたようで、それを外した彼の動きは、とてもではないが、目では追えない程だった。体術だけであの速度だ……血の滲む努力をしているに違いない。ガイ先生の話によると、リーくんは忍術が使えないそうだ。だからこそ、努力に努力を重ね、体術を特化し、あのような動きができるようになった。我愛羅が、少し動揺しているようにも見える。あのサスケくんを追い詰めただけある。
しかし、この戦い、リーくんの有利に見えたが、本気を出した我愛羅によって局面は一気に変わってしまった。砂の鎧を身につけることのできる我愛羅に、忍術や体術を食らわすのはとても難しい。狙った、かと思いきや、砂の分身で。この時、彼の中からにじみ出てくる、妙な既視感を私は感じ取っていた。命がけの体術で我愛羅と戦うが、分が悪すぎた。
戦いの最後で、リーくんが殺されそうになったところを、ガイ先生が間に入って守ってくれた。もう、リーくんの身体はボロボロで、我愛羅から受けた技で足と腕の骨が粉砕してしまっている。担架に乗せられたリーくんを見て、医療忍者の1人が衝撃的な事をガイ先生に告げた。どうやら、先程の戦いで、リーくんはもう二度と、忍として動くことの出来ない身体になってしまったらしい。そんなの、あんまりだ。しかし、ベテランの医療忍者がそう言っているのだから、間違いないのだろう。
予選の最後は、音忍のドスと木ノ葉のチョウジくんとの戦いで締めくくられた。この戦いは、ドスの勝利で終わってしまったが。予選が終わり、次は本戦。本戦まであと1ヶ月あるので、各々が本戦に向けて、力を蓄え、修行を重ねることとなるだろう。本戦には各国の大名がやってきて、ここよりも広い場所で執り行われる。各国の力を誇示するための戦いでもあるので、国としては本戦がとても重要だった。火影様から説明を受け、解散となった私たちは、とりあえずカカシ先生の元へ行き、指示を仰ぐつもりでいたのだが、すでにこの会場にカカシ先生の姿はなく。
「どこかへ行っちゃった??」
「うん、サスケくんの事を話したらその後に……」
「うーんなるほど……」
サクラちゃんは先程までカカシ先生と、サスケくんのことで話をしていたようだ。
「そうだ、私、あの音の忍と対戦することになっちゃった」
「え、あのドスとかっていうやつ?」
「そう!内側からくる攻撃の仕方をする奴だから、結構苦手なタイプの相手なんだよね、修行がんばらなくちゃ」
三半規管が狂って、気絶してしまったのがもう懐かしい。間に入りこまれないようにすれば、土遁や木遁で守ることができるが、それは相手が先に動きを見せなければできないこと。私の戦い方は、どちらかと言えば守りに徹するほうが得意だっりする。状況を見て攻撃を仕掛けなければならない場合は先に攻撃することもあるが、大半は、相手が動き出してから反撃をするタイプだ。できれば攻撃せずとも穏便に済めば一番いいとさえ思う。
「戦うからには、頑張るつもり」
「頑張って!名前ちゃん!さぁて、わたしも医療忍術の頑張らなくちゃ!」
「そうだ、いい先生見つかるといいね、カカシ先生に聞いてみた?」
「まだ聞けてないの、サスケくんのこともあったし、それどころじゃないだろうから……」
確かに、それもそうか。何も言わずにいなくなってしまう程には慌てていたのだろう。何も悪いことが起きていなければいいが……。ここで、私はナルトくんが大蛇丸から妙な封印術をかけられている事を、カカシ先生に伝える機会をすっかりと逃してしまっていた。
その夜、私は歯を磨きながらぼーっとしていると、誰かが部屋に入ってきた事に気が付いた。何も言わないで入ってくるとしたら、ナルトくんか、それ以外か。リビングを見ると、テーブルの上には一通の手紙が置かれていた。
「……テンゾウ?」
一体、なんだろうか。ここにやってきた人は、この手紙を置くだけ置いて、どこかへ行ってしまったようだ。話す余裕も無いということは、相当忙しいのだろう。置かれた手紙を開くと、そこには見慣れた文字でこう記されていた。明後日の朝6時に木ノ葉の里を立ち、約1ヶ月間外で修行をするから、色々と明日までに用意しておくように、と。
「ふむふむ……修行に付き添うのは、テンゾウかぁ……チーム木遁ってやつね」
今のところ、木遁らしい木遁は私とテンゾウしか木ノ葉では使えないそうなので、チームと言えども二人っきりだ。
「1ヶ月か……長いなぁ、でも、チーム木遁には強力なサバイバル術があるからね……」
何しろ、木遁で家を建てることができる。水道とかは流石に無理だが、水に関しては水遁もあるので問題ない。ただ、気にするべき点は一つ……テンゾウが男であること。第7班の場合はサクラちゃんもいたから寝る時など、分かれて過ごせたが、二人っきりなのでおそらく同じ部屋で代わり番こで眠る事になりそうだ。
翌日の午後、私は明日から木ノ葉の里をしばらく離れなくてはならないので、それの報告をするため、サクラちゃんの家にやってきていた。ナルトくんは朝から姿が無いのでおそらく、修行に出ているのだろう。サスケくんはまだ入院中のため、今もベッドの中のはず。さらに、仲間といえども厳重に警備されていて、面会することが許されていないのが悲しい。
この1ヶ月でテンゾウが付きっきりで私の修行を見てくれるのだが、木ノ葉の里の中では木遁の修行が大して出来ないから里の外にわざわざ出るのだろう。まぁ、木遁って周りがめちゃくちゃになる術多いもんね。
「実はね、明日から3週間だけ、お母さんの知り合いの薬剤師さんが木ノ葉の里に滞在するらしくて、その人にわたし、薬の勉強を見てもらおうと思ってるの!」
どうやら、サクラちゃんも明日から修行を始めるようだ。薬剤師の知り合いがいたとはこれはとてもラッキーなことだと思う。医療忍術の先生はそう簡単には見つけられないだろうから、それまでの間、自分なりに勉強を頑張るんだとか。サクラちゃんは物覚えもいいので、薬の知識などあっという間に会得しちゃうんだろうな。
「素敵だね!!」
「でしょ!だから、お互い頑張ろうね!」
「うん!」
中忍試験には落ちてしまったが、そこで立ち止まるサクラちゃんではない。これは、私も負けてられないな。
「そうだ、いい香りのするシャンプーもらったのがあったんだけど、名前ちゃん使わない?」
「えっいいの?」
「もちろん!これからサバイバル生活でしょ?せめてシャンプーとかそういうので、癒やされなくちゃ」
ああ、なんとありがたいことか。これから約1ヶ月、テンゾウと二人っきりで修行なので、汗の匂いとかそういうのが絶対に気になるはずだ。精神年齢が✕✕歳でも、今はまだうら若き17歳の乙女なのだから。
「あありがとうううう」
「もう、大げさね」
「男の人と二人っきりで修行だからさ~……」
「えっ、それって、前教えてくれた、名前ちゃんが前から忍術の修行を見てもらってる別の先生のこと?」
テンゾウとの付き合いも長いので、今更恥ずかしがることは別に無いが、一応乙女なので、気になるものは気になってしまう。男の人と二人っきりというワードにサクラちゃんはすぐさま反応を示した。興味津々に瞳を輝かせながら私の言葉を待っている。
「うん、そう」
「へぇ……どんな人なの?」
「どんな人?うーん、そうだなぁ……几帳面、真面目……あとサイコパスなところがあるかもしれない」
「几帳面で真面目でサイコパスって……まぁいいわ、何歳ぐらいの人なの?」
確か、テンゾウは今22歳だったような気がする。だった気がする、というのは、日頃から友達の年齢をあまり考えていないからだ。アカデミーに入学してからは、より気にしなくなったと思う。
「22歳とかかな?」
「きゃー!ちょうどいいじゃない!」
「ちょうどいいってサクラちゃん……」
「名前ちゃんは、好きな人とかいないの?あ、カカシ先生みたいなファン的な気持ちはナシね」
ファンは駄目か……。LIKEならたくさんいるけど、LOVEとなると……。
「名前ちゃんは、その人のことどう思ってるの?」
「え?どう思ってるって……うーん、友達だからなぁ……恋愛って感じでは、多分ない、のかな……私、まだ初恋を引きずってるんだと思う」
「えっ、初恋!?誰、誰!?」
うん、押しがすごいな。あまりの勢いに思わず苦笑を漏らす。座っていたベッドがきしむ。
私の初恋……結構後になってから、気づいた恋だったと思う。でも、それはもう叶わなくて。というより、その人はもうこの世にはいなくて。
「死んじゃったんだ」
「あ……ごめん」
「ううん、気にしないで、すんごくかっこよくて、いつも爽やかでさ、多分、その人の眼中に私はなかったと思うんだけど、ともかく、大好きだったなぁ」
「そうだったんだ……名前、聞いても平気?」
「うちはシスイ……シスイくんが、私の初恋」
うちは、その名前を聞いてサクラちゃんはドキッとした。彼女も、うちは一族がサスケくん以外皆殺しされていることを知っている。木ノ葉の里以外でも、とても有名な事件だから、知らないほうが珍しいかもしれない。
「この気持が落ち着くまでは……次の恋愛は考えられない、かな」
「そっか……そうだよね、ごめん、悲しい事を思い出させちゃって」
「へへ、大丈夫、サクラちゃん気にしないで!新しい恋が見つかったら、一番最初に相談させてね!」
「…うん!!」
サクラちゃんの家を後にしてから、私は明日の準備で商店街を走り回った。何が必要か考えているうちに、結構買い物をしてしまった。そして翌朝、私は木ノ葉の里の門までやってきていた。約束の時間まではまだ15分あるというのに、テンゾウはすでに準備を終えて門の前に立っている。ここがカカシ先生とは違う点だ。カカシ先生ならば、きっと1時間以上は待たされたに違いない。今日は暗部服ではなく、カーキ色のベストを着ていた。
「なんだか新鮮……」
「ああ、この姿?」
「でも、その謎の顔のパーツはあるのね……」
「だから、これは防具だって言ったでしょ」
あの顔まわりの防具……あれつけてるのって、知り合いだとテンゾウしかいないんだよね。それ、効果あるんだろうか。なかったらつけていないだろうけれども。やはり、何年経っても気になってしまう。
「じゃあ行くよ、ここから離れた場所にある、滝で最初の修行を行うから」
「先生、どうかお手柔らかに」
二人っきりで修行なんて、いつぶりだろうか。私が最初にアカデミーに入学する前、少しの間テンゾウに修行を見てもらっていたが、それ以来だと思う。それ以降はそんなに長い時間ではないが、時々修行は見てもらっていた。というより、木遁を爆発させないように、監視されていた。私がチャクラのコントロールをしっかりできるまでは。
「君は、まったく、まだ虫苦手だったの?」
「まだって……永遠に苦手だよそんなの!」
テンゾウは、私が死の森で木遁を虫相手に炸裂させていたことを知っていた。そして、予選の時の暴走についても。どうやら、火影様の判断で私は更に特別な修行をすることとなってしまった。私の場合、元々スタミナが少ないため、少ないスタミナでいかに効率的に忍術を発動させるかが大切なので、常日頃からチャクラコントロールの修行を行っている。でなければ、チャクラ消費量の多い木遁の術なんて発動できるわけがない。もう二度と暴走させないよう、苦手なものを克服せよ……つまり、私にとっては地獄のような修行がこれから始まろうとしているわけだ。
テンゾウの修行は、まさに地獄だった。今まで使ったことのない、難しい水遁から土遁、そして木遁の修行は昼夜問わず行われた。疑似戦闘もやった。相手はあのテンゾウだ……ま、結論から言うと、勝てなかったんだけど……。一番キツイのは、苦手を克服するための修行だ。克服はできなかったとしても、お陰様で苦手な虫を見て木遁を暴走させることはなくなった。と、思う。
修行の最終日の夜、私はテンゾウとともに作った木遁のログハウスの中で瞑想をしていた。これがチャクラを整えるのに、もっていこいの方法だったりする。もちろん人それぞれなので一概には言えないが、私にとっては、これが一番やりやすかった。明日、木ノ葉の里に戻る事となっているが、本戦は明後日なので、多少、時間に余裕がある。
「……あのさ、色々見てくれててありがとうね」
「……え、どうしたの急に」
瞑想を止め、後ろで武器の手入れをしているテンゾウに向き直る。この試験で、死なない可能性はゼロだ。だから、お礼を言っておきたかった。何も言わないで死んでしまうと、後悔するからだ。私には前世で死んだときの記憶がある。いつになっても、その時のことは鮮明に思い出せる。魔法で殺されたからかもしれない。その時は、誰にも感謝の気持ちを伝えられずに死んでしまったから、今度こそ、きちんと感謝の気持ちを伝えておきたかった。まぁ、あとはテンゾウの職業も忍者で、下忍の私なんかより危険な任務につくことの多い暗部だというのもある。伝えておきたかったと後悔するのは、もう二度としたくはない。
「テンゾウには、ずーっと助けられっぱなしだね、私」
「ま、君とは長い友達だし、それに、同じ苦しみを知る者だからね……放っておけなかったっていうのも、あるかも……あと、君はボクにとって妹みたいなものだからさ、血の繋がりはないけれどもね」
「ふふ、ありがとう、おにいちゃん?」
「な、なんだか照れくさいな」
自分から言っておいて、自分で照れるなんて。少し面白くて、ついつい笑ってしまった。
翌朝、私たちは木ノ葉の里に帰っていった。