24 ロングボトムの仕立て屋/一人旅

女ヶ島ではお世話になったお礼として、たっぷりと洋服を作っておいて置いた。気に入ってくれればいいけれども…風を切りながら名前は思う。
女ヶ島から飛び立ち結構な距離を移動しているが、未だシャボンディ諸島は見えない。天候が悪く、さらに休もうとした島では先住のカラスたちに追い払われたりと苦労は続いている。群れで暮らすカラスにとって、外から来たものは“部外者”―――敵そのものだ。どうしてこんな面倒な種類のアニメーガスになってるんだろう、と悔やんでもどうにもならない。

「ガァーガァーガァー!(てめぇーどこのメスだ!うちらの縄張り入ってんじゃねーよぶっころすぞ!!!!)」
「カァカァ~~~~(ひえ~~~~すぐ出ていくからごめんね~~~~!)」

元の世界でもこのアニメーガスに変身するときは場所を考えて行っていた。死喰い人との戦いのときは流石に慌てて変身することも多々あった…が、余裕があるときは絶対に場所を考えて変身しなければならなかった。
若いカラスから逃げ切ると、休憩によさそうな岩場を発見する。岩場の少し陰になったところには流木が挟まっており、そこで体を休めることができそうだ。

「(はぁ…疲れた…)」

かなり飛んできたけど、シャボンディ諸島まであと二日間はかかる。ふと、こうして海を眺めているとウォーターセブンの人たちの姿を思い出した。パウリーたちは元気にしているだろうか…サニー号を作ってくれたので、火の粉が飛んでいなければいいが…。

「(いそがなくちゃ)」

早く、ロシナンテに会いたい。彼にあったらまず…とても嫌がるだろうけれども、栄養剤を与えなくては。物凄い暴れるので彼に栄養剤を与える作業はとても骨が折れる。

シャボンディ諸島にたどり着いたのは空の旅を始めてから1週間が過ぎた頃。本来であれば極力また近づかないほうがいい場所ではあるが、名前にはどうしてもここへ来なければならない理由があった。それは、相棒ロシナンテと魔法のトランクの回収。魔法のトランクは本人でなければ開けないようになっているので最悪誰かに盗まれても場所を探れば何とでもなる…しかしロシナンテは別だ。魔女の魔力が注がれている彼には、定期的に魔力を供給する必要があった。それは体に触れることによってできるが、長い間ロシナンテの近くにいなかったために少し不安を覚えている。

「―――ふむ、変そうばっちりじゃ…」

島に上陸し、人気のないところで老婆に変身した。もう、どこからどう見ても“魔女名前”ではなかったが、どうしても身に染みてしまった“魔女感”は拭えない…。今彼女の姿は、絵本でも描かれるような“いかにも魔女”といった姿をしている。

「すみませんねぇ…ロシナンテとトランクを引き取りに伺いました」
「―――もしかして、魔女ちゃん?」

幸いなことに店には店主の彼女以外いなかった。

「ちょっと侵入防止魔法をかけかせてくださいね…あと防音魔法も…」

袖から杖を取り出し、ひょいと振る。これで認めない人は入れないし、音も外に漏れることは無い。魔法がきちんと働いている事を確認すると、名前は変身を解く。

「ふふ、魔女のおばあさんが来たからびっくりしちゃったわ」
「え!?魔女ってわかっちゃいました!?」
「えぇ…なんというか、とても分かりやすかったわよ…」
「そうでしたか…変装変えなくちゃ…」

もっと現地に馴染むよう、こっちの人たちを観察しなければ。苦笑するシャッキーの前に腰を下ろすと、差し出された紅茶に口を付ける。

「ロシナンテちゃんなら無事よ…魔法のトランクも…店の倉庫にあるわ」
「あれ…船は?」
「船は度々海賊やら海兵たちから襲われるから、今は隠しているの―――」

なんと、やはりそんなことが。彼女が言うには、デュバルたちが未だに守り続けていてくれているようだが、先週大けがを負ったそうだ。船の近くは危険なので名前は近づかないほうがいい…と言われてしまったが、彼らの事が気になって仕方がない。船も大事だが、友達の命のほうがうんと大切だ。

「彼らは今どこに?」
「今別の場所に姿を隠しているわ」
「…そうですか…」

がさごそ、と魔法のポーチの中から小さな小瓶を取り出し、それを彼女に手渡す。

「これは?」
「魔法薬です…これを傷口に塗ると、早く治るんです」
「まぁ、いいのそんな貴重そうなものを」
「大丈夫です、本来ならば私も作れないこともないんですが…」

実は、魔法薬作るのあまり得意じゃなくて…そういうと、シャッキーは笑った。

「あら、魔女ちゃんたちにもいろいろあるのね…」

ホグワーツでの成績はそこまで悪くなく、むしろいいほうではあったがその中でも特に得意だったのは変身術。仕立て屋の仕事をしていなかったら、間違いなく変身術の教卓を目指したはずだ。弟のネビルは薬草学が得意で、今はホグワーツの薬草学教授を目指しているらしい。そんな弟ともかれこれ…何年もあっていない。彼は無事に過ごせているだろうか…いくら大人になったとは言え、ドジな弟のことだ。

今連れてくるからまっててね、そういうとシャッキーは店を後にする。彼女が店を出てしばらく、突然窓ガラスに何かがぶつかる音がし、振り向くとやはりそこにはロシナンテの姿が。やっぱり変わらないのね、彼は。室内に入れてやると、キィキィと甘えた声で鳴き、名前にすり寄ってきた。久しぶりだね、ロシナンテ。そういい抱きしめると、自然と涙がこぼれてくる。一時はもう二度と会えないかもしれないと絶望したが、今こうやって、彼と無事再会することも、魔法のトランクも手元に戻ってきた。ルフィが無事なんだから、ほかの仲間たちも絶対に無事だろう。

「よかった、あなたが無事で…さ、ロシナンテ、おとなしくしているのよ」
「キィイイイイーーーッ!?」

久しぶりの再会で気が抜けていたのか、突如栄養剤を口に流し込まれ悲鳴を上げるロシナンテ。彼の為だ、仕方がない。

「本当に久しぶりね…二度と会えないかと…」
「キィ、キィ」
「ふふ…あ、そうだ、念のため身体を調べさせてね」

お尻が汚れていないか、羽が抜け落ちてハゲていないか、くちばしは折れていないか、隅々まで抜かりなく確認する。これはパートナーとしての責務のようなものだ。

「さて、島を出るわよ…いい?ロシナンテ、私、カラスに変身するから、あなたは私と並んで飛ぶの」

もしかしたら、飛ぶのはロシナンテのほうが得意かもね。そういうと、彼は自信満々に鳴いた。

「気を付けてね、魔女ちゃん、ロシナンテちゃん」
「…えぇ、また、2年後に」
「ふふ、楽しみにしているわ」

あまりここに滞在しているのは危険なので、足早に旅立つ。フクロウとカラスという不思議な組み合わせで飛んでいることに対して、気にしていたのは野生動物たちだけで意外にも人間は誰も気を留めなかった。
名前は魔法で縮めたトランクを首からぶら下げ、ロシナンテには魔法のポーチを持ってもらっている。こちらも飛ぶ際邪魔にならないよう体に密着した小さいポーチに魔法で変化してあるので問題ないだろう。

2羽の目的地は、レディ・ソーイングという伝説の仕立て屋がいるとされるパッチワーク諸島とある村。レイリーの推薦で、そこで覇気の修行をすることとなった。
なんでも彼女は針を自在に操り、あっという間に服を作り上げてしまうそうだ。服だけではなく、切れた腕もくっ付けてしまう程の医療技術も持っているらしい。

覇気をマスターすれば、もう足手まといにはならないはず。みんなを、守れるはず。
そう信じ、名前は空を舞う。

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