13 ロングボトムの仕立て屋/スリラーバーク

島で、ルフィの影が入れられた巨大なゾンビが暴れているのを横目に、名前は侵入防止魔法に集中するため船の甲板で静かに精神統一していた。すぐ隣ではロシナンテがあたりを警戒しながら首をきょろきょろとさせている。

「―――誰か来たのね!」
「ギャーギャー!」

再び船が大きく揺れた時、ロシナンテが騒がしくなる。侵入防止魔法を施しているからと言っても、この魔法は、マグル向けの魔法であり怪物のような強さを持つこの世界に人に対してはあまり効果を成さない。しかし、無いよりはあったほうがいいというのも事実。

「ホロホロホロ…、お前は“魔女”だな?」
「―――あなたは」

不思議な笑い方をするツインテールの少女が島から姿を現す。彼女の周りには大量のゾンビが居て、何やらいろんなものを運ばされていた。おそらく、彼女はゲッコー・モリアの部下なのだろう。しかし、あちらで戦っているのにどうしてここへ来たのだろうか。まさか、船の中の物を略奪しに来たのか?鋭い眼光で少女を見つめる。

「ちょっと待ちなさい!!」

奥の建物から声が響く―――よく見ればそこには白いドレスを着たナミが仁王立ちでこちらを見下ろしていた。

「あたしたちがいただくはずだった財宝…どこへ持って行くつもり」

よかった、無事だったんだ!でもドレス姿のナミ素敵!彼女の姿を見て少し気が緩む。

「ナミ、ドレスすごい似合うね!!」
「ふふ、当たり前じゃない…って、じゃなくて!名前!!魔法でそこにある財宝を手に入れるのよ!!」
「えぇ!?」

あれは財宝だったのか。自分が結婚させられそうになっていたというのに、なんと強靭な精神の持ち主だろう…。ナミの瞳がベリーの形をしていたのは見間違いではなかった。

「何勝手な事言ってやがる…わたしはこの船に乗ってお宝を運ぼうとしてるっていうのに…」
「この船に、乗せないわ…!」
「ッチ、面倒な…」

彼女に“ネガティブホロウ”―――ペローナの技が効かないことはわかっている。さらに彼女はご主人様であるモリアから“魔女には手を出すな”と言われていた。面倒なことになった、と舌打ちする。
ゾンビたちを仕向けられ、杖を構える―――しかし、次の瞬間――――突如目の前に巨大な男が現れた。

「―――だ、誰…!?」
「こりゃ驚いた……なんでお前が…王下七武海の、暴君…バーソロミュー・くま――――っ!」

…突如現れたこの男の名は、バーソロミュー・くま。島でルフィたちと戦っているモリアと同様、王下七武海の一人。ペローナのつぶやきで、二人はこの男が王下七武海であることを知った。この男を前にしてペローナは腰を抜かしてしまう。彼女の気持ちはよくわかる…名前もロシナンテが近くに居なければ、立っている事すらままならなかっただろう。
ともかく妙な威圧感を放つこの男の傍を離れたほうがよさそうだ。魔法なんか、通用しなさそうなほどに大きな体をもつこの男…果たして人間なのだろうかとさえ思う。

「おまえは、モリアの部下か」
「モリア様…いや、ゲッコー・モリアとはもう関係ねえ!あたしはいま…この島から…逃げ出すところでっ」

そうか、だから彼女は財宝をゾンビに運ばせ、この船に乗り込もうとしていたのか。しかし、その願いも空しく。

―――旅行するなら、どこへ行きたい。
男がそういうと、彼女は何かを答えた。くまを倒してモリアの手土産にしてやる…そう言い残し、彼女は姿を消した。

「嘘…でしょ…」

彼女が消えたのは、男が手をかざした瞬間だったと思う。魔法のように見えるあの力は、間違いなく悪魔の実の能力者。どうしよう、やばい奴がいる。顔を真っ青にさせたナミと目が合う。

「泥棒猫だな、麦わらの仲間…」

―――モンキー・D・ルフィに兄がいるというのは、本当か。
何故そんな質問をしてきたのだろうか。男は静かにナミの隣に降り立つ。一体いつ、あの男は移動したのか…。末恐ろしさに、身体が震える。

「い、いるわよ、エースでしょ!?それがどうしたのよ!」

ルフィにお兄さんがいたのか。それは知らなかった。いや、それは置いておいて…袖の中で、こっそりと杖を構える。しかし魔法をぶつける余裕も隙も無く。
目的は何、と果敢にナミは立ち向かうが何をしようとも俺の自由だ、と足蹴にされてしまう。

「―――お前が、“保護”すべき“魔女”だな」
「い、いつの間に…!?」

先ほどまで向こう側にいたというのに、気が付けば名前のすぐ目の前に男は立っていた。そして次の瞬間、衝撃が全身を走る。まるで死喰い人から貼り付けの呪文を受けた時のような―――…消えゆく意識の中、ナミの悲鳴と、ロシナンテの叫ぶ声―――そして見知らぬ男の声を聞いたような気がした。
名前を返しなさい、そう叫ぶ。が、あっという間に男は姿を消してしまった為、ナミの叫びだけが空しく霧の中にこだました。

「大変なことになった…早く、ルフィたちに知らせないと…っ!」

王下七武海の一人、バーソロミュー・くまに名前がさらわれた、と。

場面は変わり、意識を失っている名前を運ぶくまは自分に引っ付いて離れないメンフクロウを気にすることも無く不気味な城を進む。男はゲッコー・モリアにある忠告をするためにこの島にやってきていた。だが、まさか“保護”すべき“魔女”をすぐに見つけることが出来ようとは。

「―――お前たちは、哀れな存在だな」

男の呟きに名前が反応できるはずもなく。力なく腕の中で横たわる彼女を横目に、モリアは政府から下された命令を思い出していた。

…魔女の力は、我らのもの。あの男と同様、我らが手にするために現れた存在―――絶対に生かしてここへ連れてこい。あの男の名を伝えれば、おとなしく服従するはずだ…我々に逆らっても、無駄であることをすぐに悟るだろう…。この世界のトップ、5老星たちの言葉だ。

くまはあの男の事をよく知らない。しかし、籠の中の鳥であることはわかっている。あの男同様―――政府は彼女を第2の籠の鳥にでもするつもりなのだろう。
“彼ら”の所有権を握っているのは、この世界の神―――天竜人。立ち回りのうまかったあの男は政府の籠の鳥と言えども運よく海軍中将という地位に立てている…が、彼女はどうだろうか。

ともかく、モリアに用件を伝え、モンキー・D・ルフィを連行しなくては。ゾンビたちにモリアの居場所を吐き出させ、廊下から姿を消す。

『姉さん、ねぇ、僕心配だよ…スリザリンなんかに入れられたらどうしよう…』
『絶対大丈夫よ、父さんと母さんの息子だもの』

弟…ネビル・ロングボトムがついに今日ホグワーツに入学する。名前は今年から3年生―――やっと姉弟揃ってホグワーツに通うことが出来た。自分がホグワーツにいる間、鈍くさい弟が家でヘマをしないか不安な日々を過ごしていたが、これでもう大丈夫だ。ホグワーツでヘマをしたとしても駆け付けることが出来るのだから。まぁ、授業は別として。

『それに、ネルビはドジだから絶対にスリザリンなんかに入れないわ』
『ひどいよ姉さん…でも…その通りかもしれない…』

本当にドジな弟だと思う。どうしてこんなにも注意力散漫としているのだろうか…我が弟ながら不思議に思う。たくさんかぼちゃパイを食べるせいで体格はぽっちゃり…男の子はどんどん縦に伸びていくと祖母が言っていたが、かなり縦に伸びてくれないとぽっちゃりのまま大人になってしまうのではないだろうか。それほどまでに、弟はぽっちゃり体系だった。
翌朝、名前とネビルは祖母の見送りを受け、9と4分の3番線まで来ていた。列車に乗り込むと、弟のペット、カエルのトレバーが居なくなったことに気が付きコンパートメントを探す羽目となってしまった。ネルビはあちら側のコンパートメントから探しなさい、私はこちら側を探すから…そういうと、うん…、と不安で揺れるネビルの声が返ってくる。

『あら名前おはよう!どうしたの?』
『ごめんねディアナ、うちの弟の…ネビルのカエルを探しているんだけれども…』

同級生に声を掛けて回るが、トレバーの行方は分からず。あとはここと、あそこだけか…と扉を開くとそこには1個下の後輩たちが座っていた。

『チョウ、エリーナ、おはよう』
『おはようございますロングボトム先輩、噂は聞きましたよ』
『ヒキガエルを探しているですよね?』

黒髪の少女―――彼女はレイブンクローの2年生、チョウ・チャン。中国系の子でホグワーツでは珍しいアジア系の生徒の一人だ。アジア系の子供たちはだいたい自分の国にある魔法学校へ通うため、わざわざホグワーツへ入学しない。だから彼女はちょっとした人気者でもあった。そして彼女の隣に座っているダークブラウンの美しい少女はエリーナ・カルヴァン。図書室で勉強することの多い名前は、勉強熱心なレイブンクロー生と仲が良かった。弟がドジなのもあり、面倒も見慣れている…だから“頼れるお姉さん”として人気がある。

『次はここか…あれ?』

最後のコンパートメントを開くと、そこには同級生のセドリック・ディゴリーとダレン・スミスがいた。扉を開くなり驚いたのか、椅子から転げ落ちるセドリック。

『ははは、噂をすれば、“なんとやら”だ』
『…はい?』

何故か顔を真っ赤にして動揺しているセドリックだが、この時名前は何も気にしなかった。彼の隣でにやにやと笑う同級生も、年頃の少年少女たちが流す“噂話”にも。

『や、やめろよダレン…な、何でもないから!!』
『は、はぁ…まぁいいわ、うちの弟…ネビルのヒキガエルみなかった?』
『お前本当に弟、弟ばかりだな…』
『うちの弟の鈍くささを知らないからそう言えるのよ…』

さっき、栗毛の女の子がそういえばここにやってきて、同じ質問をしてきたなぁ。そう呟くダレンに名前はありがとう、と一言残しコンパートメントを立ち去った。
彼女の去っていったコンパートメントの中で、少年二人は顔を見合わせ、はぁ、と安堵の息を吐く。

『―――びっくりした、もう、やめろよダレン…』
『はははは~~~まさか噂話してたら、その本人が来るんだもんなぁ』
『その…やめようよ、やっぱり、そういうのよくないよ』
『お前は優等生だな~セドリック…いいか?女の胸がでかくなるときは、大抵“恋”をしてるときだって姉ちゃんが言ってた』

年頃の少年が気になることと言えば、そういうことだ。

彼らと同級生と言えども、セドリックやダレンとは違い、名前は現在14歳。彼女の場合、誕生日が12月29日なので、ホグワーツに入学する年が12歳の時だった。そのため年齢だけで言えば1個上の先輩と同じなのでそういった“成長期”の“差”が躊躇に現れる。

『学年一だと思う』
『―――本当に恥ずかしい、やめてくれダレン』

元気な少年たちの横を、一匹のヒキガエルが静かに横切っていく。

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