12 こんにちはそれぞれの世界 Type:N

「死の森なんて……すごい直接的な名前だね」

「えぇ……」

 

第一試験をクリアした者たちは、第二試験会場である第44演習場、別名“死の森”という場所にきていた。入り口には立ち入り禁止の看板が立てられている。

 

「ここが死の森と呼ばれる所以……すぐに実感することになるわ」

 

ここで、ナルトくんが突然イキりはじめ、アンコさんに物理的に忠告を受けてしまった。クナイを投げられ、ナルトくんの頬からは血が。しかし、アンコさんの後ろに草隠れの忍が一瞬であらわれ、長い舌を使ってクナイをアンコさんに手渡していた。嫌な殺気を感じて、思わず身構えると、その草隠れの忍と目があったような気がした。

 

「こっから先は、死人も出るから、それについて同意をとっとかないとね!私の責任になっちゃうからさ~~~」

 

試験で死ぬ場合もある、とは教室で試験管に言われていたが、ここからのようだ。第2の試験は、この死の森でサバイバルをすることだった。この第44演習場は、鍵のかかった44このゲート入り口に円状に囲まれてて、川と森、中央には塔がある。その塔からゲートまでは約10km、この限られた地域内で、武器や忍術を駆使した、なんでもありのサバイバルプログラム……巻物争奪戦が行われるそうだ。天の書、地の書、この二つの巻物を巡って闘うことになる。26チームある中で、その半分の13チームには天の書が、残りの半分には地の書がそれぞれ1チーム1巻ずつ渡される。この試験の合格条件は、天地両方の書を持って、中央の塔までチームで来ることのようだ。つまり、半分の13チームが確実にこの試験で落ちるというワケ。さらに、5日間という時間制限があり、その間、この森で自給自足しなければならない。この森には野生の動植物が多くあるが、それと同じく危険な猛獣や毒虫・毒草があるので、そういった知識が必要とされる。この試験の失格条件は、時間内に天地の巻物を塔までチームで持っていけなかった場合、そして班員を失った、または再起不能者を出した場合。最後に、巻物の中身は当の中にたどり着くまで決して見てはならないということ。これは、信頼性をみる試験でもあるのだ。

 

「最後にアドバイスを一言……死ぬな!」

 

その言葉に、ゴクリと生唾を飲み込む。

こんな恐ろしそうな試験で、生き残ることができるのか……。不安な私をよそに、ナルトくんたちは、しっかりとゲートを見据えていた。

 

「……大丈夫よ、名前ちゃん、わたしたちなら!」

「……!そうだよね、ちょっとすごい気迫だったから、怖気づきそうになっちゃった、あはは……」

「しっかりしろよ」

「名前ねえちゃんはオレが守ってやるってばよ!」

 

いいチームだなぁ。心からそう感じた。

私たちはゲート12から森に入る事となり、スタートの合図とともに第2試験へ挑んでいった。

 

「今の……人の悲鳴よね!?」

「……緊張するね…」

 

森に入ってまだ15分も経っていないというのに、誰かの悲鳴が遠くから聞こえてきた。もう戦いは始まっているのだから当然と言えば当然だが……やはりちょっぴり怖い。だが、ここにきてもナルトくんに緊張感はなく。

 

「オレってば、ちょっとしょんべん」

「レディの前で何晒そうとしてんのよ!!草陰行きなさいよバカ!!」

 

サクラちゃんに思いっきり殴られていた。

用を足したいからと宣言したナルトくんは、その場でズボンを下ろそうとしたからだ。

 

「あーーーーすっげー出た~~~すっきり!!」

「ナルトくん!!ちゃんと手を洗った!?」

「え!?」

 

しばらくして、ナルトくんが戻ってきた。しかし、いつものナルトくんの感じがなかったので、彼が偽物だとすぐにわかった。伊達に長く一緒に暮らしてないからね。水遁でナルトくんの偽物を吹き飛ばすと、偽物はすぐに变化を解いて私達に攻撃を仕掛けてきた。攻撃の最中、木の陰から縄で縛られたナルトくんがころりと姿を現して、サスケくんが小さく舌打ちする。クナイを投げてくれたのですぐに開放されたが、早速敵に捕まるなんて……。襲ってきた敵チームは逃してしまったが、今回の教訓で合言葉を決めることにした。

 

「いったん4人バラバラになった場合、たとえそれが仲間であっても信用するな、今みたいなことになりかねない」

「それじゃどーするの?」

「念のため合言葉を決めておく、いいか……合言葉が違った場合は、どんな姿形でも敵とみなせ!よく聞け、言うのは一度切りだ」

 

合言葉作戦はいいかもしれない。どうせ、合言葉を決めてもナルトくんにはその合言葉を覚えることが出来ないからだ。だから、あえて小難しい合言葉をサスケくんは指定した。流石はナルトくんをよく理解している第7班の仲間。仮に、ナルトくんが正しい合言葉を言えれば、それは偽物になる。偽物か本物かは、私がナルトくんに施された九尾の封印術を確認すればすぐにわかることだし。流石に姿形はナルトくんに化けられても、その封印は真似できないはずだ。なぜなら、この世界に九尾はナルトくんの腹の中にいる者だけだから。

 

「またまたぁ、そんなの覚えられるわけないじゃん」

「アンタバカね、私なんて即覚えよ!」

「あはは、確かに長かったよね」

 

とりあえず、巻物はサスケくんが持つ事となった。さて、そろそろ作戦立てますか……と立ち上がった時、嫌な殺気を感じて、すぐさま土遁を発動させた。しかし、タイミングが遅かった。恐ろしく正確で、強力な風が私達をめがけて襲いかかってきた。おそらく、風遁を誰かが使ったのだろう。ともかく、私にはナルトくんがもし暴走したときのためのストッパーという大切な仕事があるので、吹き飛ばされる時、ナルトくんの足を慌ててつかんだ。

 

「うっぐ……いってぇ~」

「ナルトくん……大丈夫!?」

 

これはまずい、超まずいかも。木遁をとっさに発動したおかげで身体は無事だが、あの風で、チームを2手に分断されてしまった。

 

「大丈夫って……うわああ、名前ねえちゃん、後ろ!!」

「え?……へ、へび!?」

 

巨大な蛇が、ニョロリと顔をのぞかせていた。ニョロリなんて可愛い擬音をつけてしまったが、胴体も頭も巨大で、一口で何人も食べられてしまいそうな程、迫力がある。これ、バジリスクよりも大きいんじゃないだろうか。

 

「ナルトくんー!!頭下げて!!!」

「う、うわあああ」

 

巨大な蛇が、ナルトくんを飲み込もうとしている。そんなことはさせまいと、私もすかさず印を組む。

 

「木遁の術!!」

 

樹木を伸ばし、蛇めがけて攻撃を仕掛ける。蛇が逃げ回らないよう、樹木で縛り付け、止めの一撃を食らわせた。木遁の槍が、蛇の身体を貫き、ついに蛇は絶命した。

 

「はぁ……す、すげぇっ、名前ねえちゃん、また強くなったってばよ……」

「はぁ……はぁ……そうだといいな……ナルトくんにお願いが一つ……」

「な、なんだってばよ?」

「おんぶ、してもらっていいかな……」

「え、どうしたんだ!?」

 

蛇のキバが、右足をかすめたのは感じていた。どうやら、この蛇は致命傷な毒ではないが、身体を一定時間しびれさせる毒を持っていたらしい。

 

「大丈夫か!?」

「うん、たぶんね……エピスキー!」

 

念のため、治療術はかけておくことにした。

 

「さ、みんなのところに急ごう……!」

「おう!」

 

あまり披露するなと言われている木遁ではあるが、この第2試験において、木遁を使うなという方が無理がある。森を走り抜けて(ナルトくんにおんぶされているので実際はナルトくんだけが走っている)いると、ようやくサスケくん達と合流することができた。しかし、サスケくんは敵にかなり追い詰められていて、いつもの余裕をかました生意気少年の姿は微塵もない。片足が不自由ではあったが、今はこのまま闘う他ない。

 

「悪いなサスケ、合言葉は、忘れちまったぜ!」

「ごめんねふたりとも、おまたせ!」

「……いいわよナルト!イケてる!それに名前ちゃんも!」

 

こいつは次元が違いすぎる、サスケくんが叫ぶ。あの風遁はこの身体が蛇みたいな女の人の仕業か。そしてあの大きな蛇も……。すべての答えが繋がり、私は静かにチャクラを練り始める。

 

「フフ……あの大蛇を見事倒してきたようね」

「やいやいやい!!どーやらお前ってば、弱いものいじめしちゃってくれたみたいだな!」

「ナルトくん、気をつけて!あの人……只者じゃない!」

「えっ?!」

「私達だけじゃ、敵わない!」

「じゃあ、どうするってばよ!?」

「こういうときは、どうするか……巻物を渡すなんてもってのほかだよ、サスケくん!」

「なっ」

 

巻物は、サスケくんが持っている。この敵に巻物を渡して引き下がってもらうつもりでいるようだが、この敵が簡単に引き下がってくれるようには見えなかったからだ。巻物を出そうとしているサスケくんに制止の声を上げ、私は目の前にいる蛇女を睨みつける。

 

「フフフ……あなたは楠名前……木遁を“先天的”に使える子……ずっと気になっていたのよ、あなたのこと」

 

この女は、私の事を知っているようだ。

 

「……どうやら、私、有名人のようですね」

「えぇそうよ、とある組織に、あなた狙われている事、知ってたかしら?」

「……モテモテで困ります」

 

一度、攫われて里の外に出たことがあるので、狙われていることは知っている。しかし、具体的には誰が狙っているのかまでは知らなかった。だが、今はそんな事、どうでもいい。

 

「ナルトくん!!2人が本調子に戻るまで、私たちで戦うわよ!」

「おう!!」

 

ご所望の木遁をもてなしてあげようではないか。波の国から帰ってきて、さらに木遁の修行を重ねてきたのだから。ナルトくんの影分身が、敵の女を襲う。しかし、次の瞬間、先程のとは比べ物にならない、巨大な蛇が姿を現した。そう、それはあの女が口寄せしたものだった。逃げるのが遅れ、私とナルトくんは勢いよく蛇に身体を叩きつけられてしまった。

 

「げほっ……!」

「うぐっ!!」

「ふたりとも!!」

「ーーー!」

 

口から血が出てきが、処置をしている暇はない。すぐさま印を組み、木遁で大蛇に木の槍を食らわせるが、先程の大蛇とは比べ物にならないほど俊敏で、硬かった。

 

「硬っ!!木遁の術!」

「多重影分身の術!!」

 

ナルトくんが多重影分身の術を使い、たくさんの分身を作る。そして、その分身たちは大蛇めがけて攻撃するが、尾を振られただけで分身の半分も消えてしまった。そうしている間にも、蛇女は私の背後に近寄り、伸びてきた腕が私の首を締め上げる。

 

「うぐっ」

「……あなたに興味はあるのだけれども、今は……サスケくんが先かしらねぇ」

 

そのまま、ゴミを投げ捨てるかのように放り投げられた。とっさに木遁で蔦を生やし、身体を守る。

 

「どうしてサスケくんが狙われてるんだ……もしかして、写輪眼……!?」

 

あの蛇女の目的は、どうやらサスケくんにあるらしい。当のサスケくんはかというと、すっかり戦意を削ぎ落とされてしまっている。サクラちゃんも、戦うことは難しそうだ。私たちがいない間に、すでにかなり追い詰められていたようだ。

 

この戦いの最中、サスケくんの戦意を取り戻すため、ナルトくんが彼を勢いよく殴った。敵に巻物を渡して、命乞いをする彼の姿を、そんなサスケくんを見ていたくなかったのかもしれない。戦う気力は戻ってきたものの、恐ろしい殺意に当てられていて、いつもの調子はなかなか戻ってこない。途中、ナルトくんの様子が変わり、あの時と同じチャクラを感じた。九尾の封印はまだ完全には解かれていないが、解かれるのは時間の問題なのかもしれない。

 

「ナルトくん!!」

「フフ……あの九尾のガキが生きてたとはね……道理で、あなたがこの班に組み込まれているわけね」

 

この班だけ4人で特殊だから、なんでなのかしらと思ってたのよ。

そう言いながら、女はナルトくんに何らかの封印術を施した。封印術の知識は多少あるので、女の使った術が封印術であることは察しがついた。なぜなら、その術の直後、ナルトくんから漏れ出ていた九尾のチャクラが消えたからだ。落ちそうになったナルトくんの身体を、木遁で慌ててすくい上げる。

 

「あなた、“根”の人間なのかしら?」

「……!根って……あのセクハラジジイの……!」

「フフ……どうやら違うようね、でも、根のことは知っているようだから、無関係なわけでもなさそう……」

 

あなたのバックに居る人間が誰か、不明確な今は、あなたに手を出すのは危険ね。そう言いながら、女は、風遁で再び私を何処かへ吹き飛ばした。もう、木遁で反撃する余裕なんてゼロだ。ただの下忍ではないとすぐにわかったが、下忍ではなく、もはや上忍よりも上かもしれない。忍術の精密さと発動速度を考えて、私なりに導き出した答えだ。根の事を知っていたので、もしかすると内部の者……。あの女が、実は木ノ葉の抜け忍、なんてことは、ないだろうか。

 

「うっぐ……」

 

ああ、駄目だ、身体が上手く動かない。

随分と離れた場所まで吹き飛ばされてしまったようだ。毒の後遺症でまだ片足がしびれており、しばらく走ることもできない。難しい木遁の術をたくさん使わされたせいで、木遁分身を走らせることも難しそうだ。

 

「だ……だめだ……」

 

立ち上がることもできない。木の中にめり込んでいる状態なので敵に見つかりにくいといえば見つかりにくい場所ではあるが、早いところ、仲間の元へ帰らなくては。ナルトくんも倒れ、サスケくんとサクラちゃんではおそらく、あの敵には勝てない。巻物よりも、目的はサスケくんだった。どうしてサスケくんを……と、考えた時、ふと、写輪眼の事を思い出した。写輪眼を狙っているのかもしれない、と。でも、サスケくんからすぐに目を奪うこともしなかった。なぜなのか……ああだめだ、頭が、ぼんやりとする。

 

気がつけば日も暮れていて、夜になっていた。いつの間にかに、気絶してしまっていたらしい。目覚めてぼんやりとする中、仲間のもとに駆けつけるためのチャクラを、兵糧丸で補っていたとき、目の前をアンコさんが横切っていった。アンコさんは何かを探しているようで、横顔からはどこか焦りのようなものを感じた。

 

「今のって……」

 

片足はまだ痺れるが、少しは動けるようになったと思う。兵糧丸を多めに入れておいて正解だった。なにしろ木遁は通常の忍術よりチャクラを多く消費するので、兵糧丸を人より食べなくてはならないからだ。このまずい兵糧丸が美味しく作れれば、こうも辛い思いはしないのだが……背に腹は代えられない、か。

ナルトくんたちと合流するために、とりあえず来た方角を戻ろうとした。しかし、アンコさんが向かった先で、あの嫌な殺気を感じて、背筋が凍りつくのを感じた。そして、あの恐怖が蘇る。

 

「……あの蛇女、まさか……」

 

仲間のところから、あの女が離れたのは吉報だが、ナルトくんたちがどうなったのか。どこにいるのか、もしかしたら聞き出せるかもしれない。そう思い、アンコさんが向かった先に駆ける。

 

「……さっきの奴!!」

「あら、あなたは、木遁使いの娘、名前ちゃんだったかしら……あなた、木遁が使えるのにスタミナが無いなんてもったいないわね」

 

アンコさんの姿は見つけられなかったが、そこにはあいつが立っていた。いや、女……なのだろうか?ちょっと難しいところだ服装も髪型も変わっていなかったが、顔が変わっている。まるで蛇のような顔、と少し思った。

 

「ナルトくんや、サクラちゃん、サスケくんたちは無事なの!?」

「フフフ……えぇ、あれを無事と言うのならば……」

「ナルトくんに封印術をかけたわね!?」

「あれが今暴れられると面倒だから……って、あなたもよく知っているはずだけれども。サスケくんにはわたしからちょっとしたプレゼントを送ってあるわ、でも、もしかしたら彼、死んじゃうかもしれないわね」

「なんですって!?」

 

男なんだか女なんだかよくわからない、不敵な笑みを浮かべる。

どうやら、この人物は、サスケくんにしか本当に興味がないようだ。この感じだと、サクラちゃんは無事かもしれない。

 

「10に1つの可能性で生き残れるけれども……フフフフ」

「何が目的でサスケくんに近づいたの…!」

「あら、それを話すわけがないでしょう」

 

やはり、簡単に口を割るはずがないか。

 

「あなた、根について知っていた……木ノ葉の抜け忍なの!?」

「……あら、察しがいいわね、わたしの名前は大蛇丸……あの男から聞いたことはないかしら?」

 

大蛇丸……その名を聞いて、はっとする。そういえば、あのセクハラジジイから大蛇丸の逃げた実験体の1人ではないかと疑われていたことがあったが、その大蛇丸か、と。

 

「あなたが大蛇丸!?あなたのせいで私、あのジジイからあなたの実験体の1人だと勘違いされてたんだからね!」

「フフ……普通はそう思うでしょうね、裏を知っている人間ならば……で、お前の後ろ盾は、わたしに何の用があるの?」

 

後ろ盾をなぜ気にするのか。頭をフル回転させ、考えたのは、その後ろ盾と思われる人物と大蛇丸が何らかの関係を持っていたということだった。

 

「私の後ろ盾……?誰……?火影様のこと?もしかしてセクハラジジイが私の後ろ盾だって言いたいワケ??」

「あら、違ったの……ふうん、予想が外れるなんて珍しいわね……そうじゃないかと思ってたんだけど……まぁいいわ、あなた、木ノ葉の裏の顔を知っていて、なおも木ノ葉の忍者でいるつもりなの?」

「……もしかして、勧誘?」

「話が早くて助かるわ」

 

まさかこんなところで、勧誘されるとは思いもしなかった。私がそれにYESと返答するわけが無いというのに。

 

「冗談も大概にしてよね」

「フフフ……まぁいいわ、近い将来、この里のすべてを知り、嫌気がさして出て行きたくなるときが来るだろうから、そのときはサスケくんと一緒にわたしを探しに来なさい」

「そんな日が来るわけ……あれ!?いない……!?」

 

そして、大蛇丸は不気味な笑い声を残して消えていった。どういう原理で姿が消えたのかは分からなかったが、とりあえずは去っていったので良しとしよう。まずは、ナルトくんたちのもとに戻らなくては。大蛇丸がいなくなった頃にはすでに、あたりは闇に包まれていた。夜の森はとても危険なので、無闇に動かない方がいい。これはサバイバルの鉄則だ。しかし、仲間の命がかかっている以上は、その危険を犯してまでも、仲間のもとへ戻る必要がある。私は気配を消しながら、森を駆けた。途中、敵チームに見つかりそうになりながらも、なんとか走り抜け、そしてついに、サクラちゃんのチャクラを感じ取ることができた。

 

「サクラちゃん!」

「……名前ちゃん、なの……!?」

「そう!あいつに、大蛇丸ってやつに遠くまで吹き飛ばされちゃって、本当にごめんね……」

 

サクラちゃんの姿は、ボロボロだった。そして、サスケくんも、ナルトくんもすぐ近くで横たわっていた。どうやらサクラちゃんが看病してくれていたようだ。

3人に近づくと、早速木遁のドームを作った。とりあえず、ナルトくんとサスケくんが目覚めるまで安全に隠せるシェルターが必要だと感じたからだ。私の木遁を見るなり、私本人だと気づき、安心したのか、サクラちゃんは地面にへたり込んでしまった。

 

「ごめん、早く戻れなくて……不安だったよね」

「そりゃあ不安だったわ……!2人は倒れちゃうし……わたし……っ」

「もう、もう大丈夫、あの大蛇丸ってやつもどこかに消えたから」

「……会ったの!?」

「ええ、あいつ……サスケくんを狙ってここに来たみたい」

「え……」

 

理由は、わからないけれども……。

 

「ともかく、サクラちゃんが無事でよかった……あいつ、大蛇丸ってやつが、サスケくんに何らかの術をかけたらしいけど、今どうなってるの?」

「熱がひどくて……苦しんでるわ」

「そっか……」

「何をされたか分からなかったから、大した治療もできなくて……それに、ナルトも目覚めないし……」

「ナルトくんは、おそらく封印術をかけられたんだよ、でも、あれを解くことは難しそう……どんな封印術かは分からないけれども、厄介そうな感じはした」

 

具体的にどんな封印術かまではわからなかったが、封印術であることは間違いないだろう。しかも、封印術は使う術者によって威力も異なる。解除できるのは、熟練の忍者だけ……いや、もしかしたら、大蛇丸しか解くことが出来ないなんてこともありえそうだ。

 

「とりあえず、サクラちゃん、仮眠取りなよ、私はしばらく倒れてたから少し元気になったし」

 

敵は見てるから、安心して。そう言うと、サクラちゃんはあっという間に眠りについてしまった。眠りというよりは、気絶といったほうが正しいだろうか。3人を木遁の壁で隠し、外を伺う。おそらくだが、誰かにここは見張られている。夜が明けたら、もしかしたら襲ってくるのかもしれない。

 

「……ふう、とりあえず……」

 

この木遁のシェルターは簡単には壊れないので、襲われても3人は無事でいられる。もちろん、大蛇丸級の敵が来なければ、の話だが。地面に座り、目を閉じる。そして静かにチャクラを練り、精神統一を始めた。1人で満身創痍の2人を守っていたなんて、サクラちゃん、相当心細かっただろうな。私だったら、そんな事、出来なかったと思う。なんだかんだ、サクラちゃんはとてもタフで、私は、結構頼りにしていたりする。

 

「ご、ごめんね、長い時間寝ちゃって……!」

「ふふ、全然大丈夫、あれから3時間くらいしか経ってないよ」

 

明け方、サクラちゃんが目覚めた。目覚めるなり、慌てて私に謝ったが、私も身体を休めることは出来たので、サクラちゃんが謝る必要は一切ない。

 

「チャクラ、少しは回復出来た?」

「うん、お陰様で……でも、2人は……」

「ナルトくんは……封印術の影響で、ちょっとわからないけれども、大事には至らないと思う。問題はサスケくんよね……大蛇丸ってやつに、何されたの?」

 

そこで、私はサクラちゃんから私がいない間、サスケくんが大蛇丸に噛まれ、首に変な痣が浮かび、その後苦しんで倒れた事を教えてもらった。あの大蛇丸とかいうやつは、木ノ葉の裏をよく知っている人物で、おそらくダンゾウとつながりのある人物とみた。この問題に無闇に首を突っ込んだら、相当痛い目を見そうだ。いや、痛い目だけで済めばいいが……。

 

「そういえば、2人に、治療術を施してくれてたの?」

「えぇ……見様見真似なんだけど……簡単な術から勉強を始めたの」

「すごいやサクラちゃん!やっぱり、医療忍術の才能があるね!」

「そ、そんなに褒めても何も出ないわよっ」

 

周りが明るくなったおかげで、横たわっている2人に、思ったより外傷が少ない事に気が付いた。それは、最近サクラちゃんが勉強を始めた医療忍術の賜だった。

 

「カカシ先生には相談したの?」

「いいえ……まだなんだけど……巻物を見て勉強をしただけだから……あと、木ノ葉病院で時々教えてもらっていたの、やっぱり、カカシ先生じゃなくて、ちゃんとした医療忍者に修行を見てもらったほうがいいって言われたわ」

「そっか……そうだよね~……誰かいい先生、見つかるといいね」

「うん!わたし、医療忍術を学んで、みんなを守りたいんだ!」

 

こう思えたのも、名前ちゃんが背中を押してくれたおかげ。まっすぐな目でサクラちゃんにそう言われ、思わず照れてしまった。でも、サクラちゃんが少しでも前向きに、自分のなりたいものを見つけられて良かったと思う。

とりあえず朝食として、兵糧丸を1粒食べると、サクラちゃんと私は鬱蒼とした森を一斉に睨みつけた。なにかの気配を感じたからだ。

 

「……あれ、リス?」

「なぁんだ、リスか……」

「……!」

 

とっさに、サクラちゃんがリスの近くにクナイを投げた。リスはそれに驚き、どこかへ逃げていった。どうやら、リスに起爆札が仕込まれていたようだ。流石はサクラちゃん。

 

「じゃあ、私は飲水を汲んでくるね」

「おねがい」

 

別に、水を汲みに行く必要はない。水遁を使えば、飲水だって確保できる。しかし、あえてサクラちゃんたちと離れたのには理由がある。私があそこにいると、近くに潜んでいる敵が警戒して、なかなか出て来ないからだ。1時間ほど様子を見てみたが、なかなか姿を現さない。ずっと隠れられていても、こちらも身動きが取れないので、こちらから動いたというわけ。案の定、サクラちゃんだけになったとき、音隠れの忍が襲いかかってきた。私は敵のすきを見て裏から攻撃を仕掛けるハズだったのだが、予想外の人物の登場に、作戦は見事に崩れ去ってしまった。

 

「な、何者です……!?」

 

サクラちゃんの前に突如姿を現した、全身緑タイツの少年に、音隠れの忍は驚きの声を上げる。彼らも彼がやってくることを想定していなかったようだ。

 

「木ノ葉の美しき碧い野獣……ロック・リーだ!」

「な……なんであんたがここに…」

「アナタがピンチのときは、いつでもあらわれますよ」

 

死ぬまでアナタを守ると言った約束を、彼は守るため、やってきたらしい。

なんて漢らしいことか。しかし、そんな彼の勇姿を無駄にして申し訳ないが、サクラちゃんが1人残ったのは作戦だった。まぁ、もう遅いが。ここは彼の善意に甘えて、味方になってもらおう。何しろ、大蛇丸とやらと戦った際に、木遁を使いまくって、スタミナがもともと少ない私の残りのチャクラ量は通常時以下。サクラちゃんより無いかもしれない。

 

「木遁!」

「「「!!」」」

 

登場するなら、今しか無いだろう。音隠れの忍めがけて攻撃を仕掛ける。残念ながら避けられてしまったが、足に怪我を負わせることは出来た。

 

「あなたは……!」

「ごめんね、心配かけちゃって、実は作戦だったんだよね……でも、手を貸してくれるととても助かるわ、大蛇丸ってやつと戦って、めちゃくちゃチャクラを消費したから」

 

大蛇丸、その名前を聞いて、彼らの身体が揺れた。そこから、私たちの反撃が始まった。まず、体術に秀でているリーくんが一時的とは言え、仲間に加わってくれたおかげで作戦がかなり楽になった。木遁のドームも、今はサクラちゃんがサスケくんたちを死守してくれているおかげで解除できたし、このまま順調に行けばこいつらを倒せるかも……と思っていた。戦いの最中、リーくんが“音”の攻撃を受けて負傷してしまった。だが、それで止まる彼ではなかった。

 

「ーーーーぐぁ!」

「名前ちゃん!キャ……!」

 

土遁の壁で攻撃を防いでいたが、寝不足の疲労感も祟ってか、私も敵の攻撃を直接受けてしまった。たしかにこの攻撃はかなりきつい。方向感覚がおかしくなってしまった私は、そのまま地面に倒れ込む。内側から壊してくるその技を受けて、よくリーさんはあそこまで動けるなと感動すらしてしまう。

 

「痛っ」

「わたしよりいい艶してんじゃない、これ……ふん、忍のくせに、色気付きやがって」

 

音忍の少女が、サクラちゃんの髪の毛をぐっとつかんでいる。私は敵の土遁に抑え込まれ、さらに三半規管もまだおかしいため、すぐには動くことができそうにない。

 

「髪に気を使う暇があったら、修行しろ、この雌豚が!」

「痛い!」

「ザク、この男好きの目の前で、そのサスケとかいうやつを殺しなよ、こいつにちょっとした余興を見してやろーよ」

「お!いいねー!」

「オイオイ……」

 

リーくんも、私も動けない状況で、しかもサクラちゃんも動けない状況になってしまった。そんな中、音忍は横たわっているサスケくんにどんどん近づいていく。

 

「無駄よ!わたしにそんなものは効かない」

「何を言っているの?」

 

なんと、サクラちゃんは自分の髪を己のクナイで切り、敵の手から逃れた。サスケくんの事が大好きなサクラちゃんが、あんなに伸ばしていた髪を切るなんて。サスケくんは、髪の長い女の子が好きらしい。そのサスケくんに振り向いてもらうために、いつも髪の毛にもすごく気を使っていた。振り向いてもらうために、髪を長く伸ばしていたのに。そのサクラちゃんが、仲間を守るため、自分の髪を切ってまで、戦うその姿に私は身体の震えが止まらなかった。サクラちゃんがあんなに頑張っているのに、自分は、なぜ動けないのか。ぐわん、ぐわんと回る視界で、悔しさがこみ上げてくる。

 

音忍との戦いの中で、サクラちゃんは変わり身の術で敵の攻撃を避けつつ、ついに一撃を食らわせる事に成功した。しかし、サクラちゃんもサスケくんたちを治療するため、体力もチャクラをかなり消耗していた。これ以上は、本当に危ない。私は無理やり忍術を発動させた。ザクという少年とキンという少女の脇腹を木遁が勢いよく貫いた。その瞬間、私は意識を手放してしまった。

 

目覚めると、音忍はいなくなっており、何故かいのちゃんたちや、テンテンちゃん達が集まっていた。どうやら、あの音忍たちは最終的に目覚めたサスケくんが追い払ってくれたようだ。すぐ隣ではナルトくんが私を心配そうに覗き込んでいる。

 

「リーくん、いのちゃんたち、ほんとにありがとう、助かったよ……そしてサスケくんもありがとう」

「あんたが一番アイツらに致命傷与えてたけどな」

 

そういうのはシカマルくんだ。

 

「そ、それは攻撃受けて三半規管が狂ってたから……でも死んでないよね、あの人達!?」

「あぁ、死んでねぇ」

「……はぁ、よかった」

 

本当は腕を狙ったつもりだったのだが、三半規管がおかしくなったせいで、上手く狙えなかった。まぁ、仕返しには十分すぎるかもしれない。殺すまでとはいかないが、なかなか殺傷力のあった攻撃だったと我ながらに思う。人を殺す事に対しては抵抗が無いと言えば嘘になるが、仲間を守るため、仕方がないことだってある。これを割り切れるようになったら、きっと、私は忍者として上手くやっていけるのだろう。これは、テンゾウにも言われた言葉だった。だけど私は、まだ、誰かを殺す覚悟は持っていない。だから、あの時、2人を殺していなくて本当に良かったと思った。

 

「ふん、とんだ甘ちゃんだな」

 

と、ここで少し離れた場所にいたネジくんが突然会話に入ってきた。冷たく吐き捨てるように言われた言葉は何も否定できない。事実、そうだからだ。

 

「お前、木遁を使えるくせに、宝の持ち腐れだな」

「おい!」

「いいよナルトくん……実際、そうだしね……いや~でもネジくんも、私たちを助けようと駆けつけてくれてありがとう~ツンツンしてるけど、実は優しいタイプだよね~」

「なっ!?お前、調子に乗るなよっ」

 

駆けつけて来てくれたのは、仲間のリーくんがここにいたからなのはわかっている。まぁ、感謝の気持ちは伝えておかなくちゃね。サクラちゃんから治療術を受けたリーくんが少し回復すると、みんなそれぞれに散っていった。ちなみに、いのちゃんがサクラちゃんの髪の毛を整えてくれたので、素敵なイメチェンになった。

 

第2試験が始まって、もう4日が過ぎた頃。川で魚を食べていた時、ナルトくんが巻物を開こうとして、それを止めるためにカブトさんが突如現れた。このカブトさんとやら、私、信用出来ないんだよね。なぜかというと、彼から、夕顔さんや、テンゾウたちと似たような何かを感じるから。別に2人を悪く言うわけではないが、裏がなにかありそうな感じはする。

そんなカブトさんの助力もあって、私たちは第2試験を無事突破することが出来た。途中感じた、カブトさんへの違和感……サスケくんも感じているようで、その証拠に、カブトさんがいなくなってから、意味深な視線が送られてきた。