11 anemone/学生時代

学業も順調、稼業も順調(喜ぶべきか、悲しむべきかは悩むところだが)で絶好調の名前はホグワーツで初めてのクリスマスを迎えていた。ジェームズは相変わらずリリーにアタックしては玉砕し、シリウスは数多くの少女たちを泣かせている。ケビンとダニエルの間が妙に冷めきっているのは見慣れた光景だ。ハッフルパフでケビンは純血の友人を作ったのか一か月前くらいから部屋に来る時くらいしか顔を合わせなくなった。最近知り合った友人でリーマスとピーターがいるが、彼らはジェームズの仲間内で同じ部屋なんだとか。彼らからはジェームズが毎日毎日リリー、リリーうるさいと聞くが同じ部屋だから尚更なんだなと思った。よかった、別の寮で。そう思ったのはここだけの話。

「あれ、お前クリスマスは家に帰るんじゃなかったの?」

「・・・買い物に行ったときに福引をしたらしいんだけど、ハワイ旅行のペアチケットが当たったとかで・・・」

「あぁ、置き去りか」

「まぁそんなとこ。別に気にしちゃいないけどさ」

ハッフルパフでもこの時期はほとんどの生徒たちが家へ一時帰宅する。ケビン然りだ。ほとんどの生徒は久しぶりの家族との再会に胸を躍らせているはずなのだが、一部そうでない友人たちがいるのを忘れてはいけない。

「シリウス、あいつすげー愚痴ってたけど」

「家に強制送還だっけ?クリスマスはブラック家でパーティーだから絶対に帰らなくちゃいけないって散々喚いてたよな」

彼は典型的な純血思想の家庭に生まれた。だが、それを良しと思っていないようで家族を嫌っていた。ホグワーツにも彼の従弟や親戚が通っているらしいが誰もがスリザリンに入っていると言っていた。今年はこっぴどく叱られるなどとぼやいていたのを思い出す。

「俺、普通の家でよかったと思う」

「おれも・・・」

シリウスには悪いが、庶民ほど素晴らしいものはないと思う。友人たちを見送ると、ホグワーツに見知った顔はごく僅かとなった。一番予想外だったのがセブルスが残っているということ。ダニエルはもちろんブラック家のパーティーに出るそうでここを発っている。この時期になると残る生徒が少ないので広間の席も真中に一つだけ用意されていてそこにいろんな寮の生徒、教師陣が座っているのだ。一番奥にいるダンブルドアと目が合い、ウィンクをされてしまったので適当に返しておいた。

「セブルス、おまえ残ってたのか~」

「・・・僕が残ってたら悪いのか。そういうお前だって残ってるだろ」

「まぁね。二人はハワイに旅行中だから、家には誰もいないんだよ」

「・・・両親はどうしたんだ」

「流行り病で死んでるよ。おれが1歳くらいの時だったとおもう。だから両親の顔は写真でしか覚えてないんだよ」

「・・・そうか」

姉さんの顔も、あの時は幼かったのでよく覚えていない。ただ、姉さんがよく焼いてくれたパイだけは覚えている。両親がいないことを別に悲しんだこともないし、苦痛だと思ったこともない。リチャード兄さんとマリーがいればそれだけでいいのだ。

「セブルスの友達はブラック家のパーティーに参加してるんだろうな」

「友達?そんなもの必要ない」

ブラック家のパーティーのことは軽くスルーされてしまったが、その一言に少し胸がちくりとした。こっちは友達のつもりでいたんだけどな。

「なぁ・・・リリーは友達じゃないのか?」

「・・・お前には関係のないことだ」

「なんだよそれ。近所なんだし教えろよな」

ずいずいと押すと席を離れ、一番離れた場所に腰を下ろすセブルス。そこまで邪険に扱わなくともいいだろうに。異様に静かなホグワーツの食事風景は面白いもので、誰一人として馬鹿をやろうとする者はいなかった。静かな食事もいいけど、普段の光景のほうがいいな。ジェームズが残っていれば違うんだろうけれども。

寮に戻ると本当にひとりぼっちとなった。いつもケビンとダニエルの間に挟まれて微妙な気持ちになってたあの日々が懐かしい。たった1週間程度だというのに一人でいるって本当に辛いんだな。兄妹に囲まれて育っていたので、尚更さびしく感じるその空間に名前は気分を紛らわそうとアルバムを開いた。魔法界の写真は動くそうだが、マグルの世界で撮った写真ばかりなのでそれらが動くことはない。けれども、確かにこの人たちは生きていたんだな、と実感させられる。写真でしかよく覚えていない両親と姉の姿にじんわりと来るものがある。ページを開くと今度は兄妹3人で撮った写真があった。これは1年前あそこに引っ越してきたばかりの時に撮ったものだ。引っ越し作業で腕をひねったマリーの右腕には包帯が巻かれている。兄妹の肩を持つリチャードの笑顔がまぶしい。

「・・・さびしいな」

おれ、なにやってんだろ。こんなことしても余計さびしくなるだけだっての。名前は自嘲気味に笑う。日記でも書くか、と机に赤い表紙の日記帳を取り出す。日記を書くのは名前の日課で、これを欠かせたことはないというくらい。

「え~っと・・・プレゼントはもう用意してある、みんなは喜ぶだろうか・・・一人のクリスマスはさびしい。今日、セブルスが友達は必要ないと言っていたが、リリーは友達じゃないんだろうか・・・・」

日記を書き終えた頃には消灯時間が迫っていた。軽く授業の復習をすると名前は眠りについた。その翌朝、談話室には友人たちからのプレゼントが届いており、これもまた予想外なのがセブルスからプレゼントとして羽ペンとインクのセットが届いていたことだ。もちろんセブルスには魔法薬学の本をプレゼントとして送ってある。母さんの持っていた古い本で、なんとなく貴重そうだから送っていたのだ。家にあっても誰も読もうとしないので、どうせならば読んでくれる人に渡したほうが本にとってもうれしいに違いない。

「流石金持ちの家は違うな・・・ダニエルとシリウスからのプレゼント、なんかおかしくないか?」

一人でぶつぶつと傍から見ればあやしいだろうが、これはつぶやかざるおえないだろう。なぜならば、二人からのプレゼントは他の人たちとは金額が違うものばかり。シリウスからは鷲が模られたネクタイピン。しかもこれは魔法界ではかなり有名なブランドで、ネクタイピン一つでもローブを3着は買えるくらいだ。ピンの入っていた箱には小さな手紙が入っており、シリウスらしい不器用な内容が短く書かれていた。

“プレゼント、何を送ったらいいかよくわからなかったから無難なものを送っとく。 シリウス”

・・・確かに無難なものではあるけれど・・・。まぁいいや、ありがたく使わせてもらおう。名前は早速ピンをネクタイにつける。

「ダニエルからのプレゼント・・・この漆黒のチェスってシリウスが送ってくれたピンと同じブランドのやつだろ・・・これ、確か・・・・」

レイブンクローの友人から魔法界の雑誌を見せてもらったときに、このチェスを見たことがあった。金額はローブが6着は買えるくらい。

「おれ・・・二人にもっといいものを送るべきだったよな・・・」

友人たちのプレゼントに冷や汗をかいたり喜んだりと過ごしているうちに朝食の時間がやってきた。リリーからのプレゼントは日記帳で名前が好きなメーカーのものだった。流石はリリーだ。家族からは巨大な箱いっぱいにマグル界のお菓子が入っていて、当分間食には困らなさそうだ。一番困ったのがジェームズから来たプレゼントで糞爆弾。これを何に使えと?

「おはようセブルス、プレゼントありがとな!」

「・・・ふん」

昨晩からの機嫌は治ったようで、隣に座っても何も言ってこなかった。

「お前がくれたあの本だが・・・あれは絶版になった本だぞ・・・よく見つけられたな」

「あぁ、それか。家にあったんだ・・・母さんが実家から持ってきた本らしいんだけど・・・」

セブルスは名前からのプレゼントを大いに喜んでくれたようだ。彼が言うには魔法薬学の本の中では幻の本とされ、所持しているのは純血の家で旧家の者か、ホグワーツくらいなんだという。

そういえば・・・リチャード兄さんは血がどうとかこうとか言っていたな。もしかしてハンナ姉さんはそれ関係で・・・?でも、どうして未だにそのことを教えてくれないんだろう。もしかして、知らないほうがいいことなのかもしれない。

「お前の姉だが・・・一応、知り合いに当ってみたがそんな人物知らないそうだ」

セブルスがまさか協力してくれると思わず、名前は一瞬ぽかんとしてしまったがそういうところがセブルスなんだな、と思った。口では友達は必要ないとか言うが、結構思いやりのある奴なんだな。

「ありがとな」

「別に・・・」

クリスマス休暇が終わり、再びホグワーツが生徒たちの声で賑やかになった。静かなホグワーツは不気味で、やはりホグワーツは賑やかでなければな、と改めて実感する。シリウスからの愚痴、ケビンからの土産話などを聞いているだけでおなかいっぱいになる。それから数カ月後、学期末試験が目前なのもありみんなピリピリしている。名前はマリーにいい成績を取れと言われていたのでここは頑張らなければならない。少しでも多く、ホグワーツに通えないマリーに魔法が教えられるように。

「なぁダニエル、魔法薬学のレポートどんなふうにまとめた?」

「え、う~ん・・・まぁ、要点は抑えたつもりだけれども・・・」

「そうだよなぁ・・・おれ、まだ2メートルも残ってるよ・・・」

「頑張るしかないよ」

「そうだよなぁ・・・」

ケビンはリリーと図書室に行っているので不在だ。たまたま談話室に向かったら仲間内とレポートを片づけているダニエルと遭遇した訳なのだが。ダニエルとケビンの間は相変わらず冷え切っている。他人の人間関係をとやかく言うつもりはないが、せめて同じ部屋なのだから挨拶くらいはしてほしいものだ。もちろん、ケビンに対して。

「きみ、名前・レパードだろ」

「そうだけど」

「グリフィンドールの問題児と仲がいいみたいだけど、どうして彼らと仲がいいんだい?」

グリフィンドールの問題児と言えば彼らしか思い浮かばない。先週糞爆弾を広間で爆発させたとかで減点されてたっけ。

「列車で出会ったのがきっかけってやつかな。」

「そうなんだ。でも彼らと一緒にいると減点されそうで怖いな」

「はは・・・確かに」

雑談はともかくとして、今はこのレポートを片づけなくてはならない。一体いつになれば安心して眠りにつけるのだろうか。まだまだ先は長そうだ。

それからしばらくして、長いテスト期間がようやく終わった。学年主席は驚くことにあのジェームズ・ポッターで次席がシリウスとケビン、そこは流石だと思った。だが、まさかあのジェームズがそこまで頭のいいやつだとは思いもしなかった。この事実に相当ショックを受けたのは言うまでもなくセブルスとリリーだろう。トップとその次がグリフィンドールからなのだから、スリザリン生にとっては悔しいばかりだろう。ハッフルパフからトップ2が出たとのことで、それからケビンはハッフルパフでちょっとした有名人となった。おれはかというと・・・まぁ、聞かないでおいてくれ。