09 anemone/学生時代

のどかな昼休みがやってきた。一年生たちは次の授業はまだかとそわそわしていた。

昼食も相変わらずマルフォイの隣でしていたダニエルだが、今朝ほどは表情は悪くなかった。もしかしたら、あの時自分と打ち解けたからだろうか、なんとなくそう思った。

「ふん、お前には絶対に負けないからな!名前!」

「あれは奇跡だよ。おれ、くじ運だけは昔からよかったんだ。君のように努力している人と、運任せな人とじゃ、比べるには申し訳ないだろ」

「運も実力のうちだ!くそー、悔しい!あのセブルス・スネイプって奴もだ・・・とくに、あいつにだけは負けたくないね!」

「ははは、まぁ、がんばりなよ、応援してるからさ」

「お前もライバルの一人だからな!」

「え・・・いやいや、おれを張り合い相手にするのは間違ってるって、君は本当に努力家だし・・・おれなんて、なんの努力もしてないのにさ」

「ふん、男に二言はねぇ」

「ケビンってすごい男前だね、惚れなおしたよ」

「いまさら気がついたのかよ。まあいい、俺も意地張ってわるかった。この性格どうにかならないかな・・・」

「あはは・・・ケビンはもしかしたらグリフィンドールに行ってもうまくやっていけたかもね。性格的にグリフィンドールっぽいしね」

まさに、ケビンの性格はグリフィンドールそのものだった。負けず嫌いで、仲間想いで・・・でも、努力家なところはハッフルパフなのかもしれない。

「そんなにほめちぎっても、レポートは見せてやらないからな」

「なあんだ、バレてたか」

「バレバレだっての!変身術のレポートは自力でやるんだな」

「君をあてにしていたんだけどなぁ」

「図書館行けば資料くらいあるだろ」

まったく、彼はとことんまじめだなぁ。名前はくすりと笑った。

「次は・・・薬草学か」

「そうだね。グリフィンドールとの合同授業だ。きっと騒がしくなるぞ」

「そうだろうな・・・ジェームズたちが大人しくしているはずがないもんな」

「あれ、ジェームズのこと知ってるの?」

いつの間に友達になったの?これも集団生活の特色なのだろうか。

名前たちは授業を受けるべく温室へ向かった。

温室へ向かう最中、ジェームズたちにからまれた。そしてやっぱり、あの事を言ってくるのだ。

「やあ二人とも!ご機嫌麗しゅう」

「気色悪いなジェームズ、リリーのことは何も言わないからな」

「んな!別にそんな下心があるわけじゃないんだからな!」

「・・・・あるだろ」

「あるね」

シリウスとケビンは口をそろえて言う。ジェームズもなぁ・・・黙っていればかっこいいんだけどなぁ・・・

シリウスとジェームズは女の子たちが好きそうな顔をしていた。なぜそれがわかるのかというと、マリーがよく買っている雑誌をよく一緒に見るからだ。

その雑誌には女の子が好きそうな男性がカッコよく服を着こなしている。それを見ているのもあって、洋服のチョイスはいつもマリーにまかせっきりだった。

シリウスに至ってはただ立っているだけでモデルのようにも見える。

きっと、彼はこれから女の子たちに追いかけまわされるに違いない。

「授業では何をするのかな」

「ふん、俺はすべての教科書を暗記したから何の問題もないね、そうでもしないとスネイプには勝てなさそうだからな」

「ああ、あのいけすかないスリザリンの一年生か」

「俺、お前のことすげー応援してるからな、ケビン!あいつなんかに負けるなよ!」

「言われなくとも負ける気はないね!

「僕もちょうど、あいつのことが気に食わなかったんだ。君があいつを敗北の底に打ちのめしてくれれば僕もこれ以上にない喜びを味わえるんだ」

・・・セブルスはそんなに悪い奴なんかじゃないのになぁ。

これはけして口では言うまい。名前は心の中でつぶやく。

薬草学の初めの授業はマンドラゴラの植え替えの授業だった。植え替えの際は必ず手袋と耳当てを着用するのだが、名前以外のマンドラゴラはキーキーという甲高いうめき声をあげるのだが、名前がつかんでいるマンドラゴラはおかしいくらいにおとなしかった。病気なのではないか、と教授に聞いてみたがそうではないようだ。

これがここまでおとなしいのは大変珍しい、と教授は妙な加点をくれた。

また点数を稼いだ名前は、ケビンにぎろりと睨まれてしまった。

授業が終わり、ケビンと歩いているとリリーとグリフィンドールの一年生らしき少年が目の前を歩いているのを見つけた。

リリーは名前に気がつくと、ほほ笑みながら駆け寄ってきた。

「名前、あなたすごいじゃない、あれをおとなしくさせちゃうなんて」

「・・・あれは、たぶんまぐれだよ。おれ、昔からくじ運だけは強いんだ」

「そう、くじ運だけね」

ケビンは負けじと続ける。

「何ムキになってるんだよケビン」

「俺は負けず嫌いなんだ」

「知ってるさ」

「ふふふ、二人ともとても仲良しなのね。そうそう、彼は同じ寮のヨハンよ」

「よろしく」

「あぁ」

あらたな出会いに名前たちは顔を緩ませる。

「でも、リリーとこうして話をするのは久しぶりだな」

「そうね。最後に話したのは入学式だったかしら。」

「そうだね」

「何何、お前らどういう仲なんだよ~」

ケビンがそうはやしたてると、ヨハンの眉間がピクリと動いた。

「家が近所同士なんだよ、近所って言っても、ちょっと離れてるけどね」

なんだ、そういうことか。ヨハンの独り言が彼らに届くことはなかった。

「じゃあ次の授業があるから、行こう、リリー」

「えぇ、そうね。じゃあ、またね!」

「あぁ」

二人が去った後、ケビンはにやにやと笑いながら名前のわき腹をつついた。

いや、彼が何を言いたいのかはわかる。名前はあえてそれを無視することにした。

その日最後の授業が終わった頃にはすでに日が暮れており、夕食の時間まであとわずかだった。腹の虫が短くなると二人は爆笑する。

「さーて、今日はどんなメニューかな」

「たぶん君の大好きなチキンはあるだろうね」

「なんで俺がチキンが好きだってわかるんだよ」

「君、気が付いていないのかい?チキンを見るときの目だよ、目。とっても輝いて見えるよ」

「うるせえってば!じゃあ、なんでお前はなんでパイしか食わないんだよ」

「昔からパイが好きなんだよ」

姉さんや母さんが昔、よく焼いてくれていたからね。昔を思い出して名前は小さく笑う。

「なんだよ、急に笑って」

「いやぁ・・・おれにとってパイはちょっとした思い出なんだよ。」

姉さんと、母さんの、大切な思い出のね。