09 こんにちはそれぞれの世界 Type:N

忍者の世界では、AからDとそれぞれ難易度によって任務のランクが分けられている。下忍になりたての私たちは、主に安全なDランクの任務をこなす事となるのだが、時々Cランクの任務が回ってくることがある。現時点で第7班はDランクの任務ばかりなので、ついにしびれを切らしたナルトくんが、火影様に直接文句を物申してしまった。

 

「けど、オレってばいつまでもじいちゃんが思ってるようないたずら小僧じゃねえんだぞ!」

 

まあ、たしかにDランクの任務にも飽きてきた頃だとは思っていたが、平和に過ごせるならDランクの任務だけで正直お腹いっぱいだ。しかし、ナルトくんと同じくサスケくんも今までの簡単な任務には不満がある様子。そう、彼の横顔に書かれていた。自分の腕を試したい奴らだから、こうなるのも仕方がないかぁ。私は内心ため息を漏らす。

 

「……分かった、お前がそこまで言うなら、Cランクの任務をやってもらう。ある人物の護衛任務だ」

 

今、第7班はDランクの任務を完了した報告をするべく、任務の受付にやってきていた。受付には基本中忍が常駐していて、上が決めた任務をそれぞれの忍に割り振りをする。難易度の高い極秘の任務を除くが。

火影様が偶然来ていて、ナルトくんはついに文句を爆発させたため、Cランクの任務を受ける事となってしまった。Cだからまだ忍者との戦いは無いはず……、そう、本来ならば。

 

「だれだれ!?大名様!?それともお姫様?!」

「そう慌てるな、今から紹介する!」

 

と、言われ部屋に姿を表したのは職人っぽい風貌のおじいさんだった。

 

「なんだァ?超ガキばっかじゃねーかよ!」

 

とくに、そこの一番ちっこい超アホ面。お前それ本当に忍者か!?お前ェ!

酒を片手に文句を吐き出してきたこのおじいさんの名前はタズナ。橋作りの超有名人らしく、彼が波の国に帰って橋を完成させるまでの間、命をかけて“超護衛”してほしいという依頼だった。

ちっこいと言われた当の本人は、自分のことだとは思わず、私を静かに見つめていた。確かに私、年齢の割には小さい自信はあるけど……。

 

そして、火影様から正式に任務を承った第7班は、波の国へ向かうこととなった。里を出て波の国へ向かう道を歩いている途中、ナルトくんがわーわーとタズナに向かって喚いている。どうやらタズナさんに馬鹿にされたようで、依頼人が殺されないように護衛しているというのにぶっ殺すと宣言していた。その後、カカシ先生に首根っこをつままれたのは言うまでもない。

 

「ねえタズナさん」

「何だ?」

「タズナさんの国って波の国でしょ?」

「それがどうした」

「ねえカカシ先生…その国にも忍者っているの?」

「いや波の国に忍者はいない……が、たいていの他の国には文化や風習こそ違うが、かくれ里が存在し、忍者がいる」

 

ここで、カカシ先生がサクラちゃんに忍び5大国の説明をしてくれた。小さな国では忍の隠れ里を持たない場合もあるが、それぞれの忍の里の中でも、木の葉・霧・雲・砂・岩が存在する五カ国は国土も大きく、力も絶大なため、忍び五大国と呼ばれている。里の長が影の名を語れるのもこの五カ国だけで、火影・水影・雷影・風影・土影のいわゆる“五影”は全世界、各国何万の忍者たちの頂点に君臨する忍者たちだ。だから、木の葉の火影様はいかに強いかが伺える。あのセクハラジジイのような嫌な感じは無いが、常に隙きのないところは流石だと私は下忍ながらに感じていた。そして、案外、たぬきジジイであることも。

 

「Cランクの任務で忍者対決なんてしやしないよ」

 

いや、これは嘘だな。流石にこれにはサスケくんも感づいているらしく、目があったとき、意味深に頷いていた。道の途中、晴れ渡った空なのに、不自然な水たまりがあることに気がついた。しかもその水たまり、時々移動している。カカシ先生なんて、すぐに気が付いただろうな。ここで気づいていないのは、サクラちゃんとナルトくんだが……。

 

「じゃあ、外国の忍者と接触する心配はないんだァ……」

「もちろんだよ、アハハハ!」

 

タズナさんがその言葉に表情を曇らせたことから、彼が何者かに命を狙われ、今も敵がこちらに襲いかかろうとしていることがわかった。まったく、Cとか言って、嘘ついて。

でもまぁ、いつでも彼を守れるよう、土遁の準備は出来ている。

と、次の瞬間、ずっとこちらを今か今かと狙っていた忍が襲いかかってきた。不自然な水たまりから2人が姿を現し、カカシ先生をバラバラにしてみせた。次に、ナルトくんが襲われそうになるがサスケが機転を利かせて攻撃を弾き飛ばす。

 

「サクラちゃん!タズナさんを守るよ!」

「……っええ!」

 

外国の忍と戦うのは生まれて初めての経験で、サクラちゃんの足が恐怖で震えている。もちろん、私だって足が震えている。実践なんて、あの日以来だ。

 

「カカシ先生はっ」

「大丈夫あれは変わり身の術だからっ」

「えっ!?」

「そ!だからタズナさんを守ろう!サスケくんたちは大丈夫、カカシ先生がいるしね!」

「……わかった!」

 

やっぱり、サクラちゃんとは何かとやりやすい。今までDランクの任務を幾つかこなしてきたが、サクラちゃんが頭脳派なのもあって、冷静に作戦を進行できる。同じ班になってわかったことだが、サスケくんも冷静に見えて、結構身体が勝手に動くタイプだから、ナルトくんと少し似たタイプだった。ナルトくんよりは冷静ではあるが。

 

「ナルト……すぐに助けてやれなくて悪かったな、怪我させちまった、お前がここまで動けないとは思っていなかったからな、とりあえず、サスケよくやった」

 

初めての実践なのに、サスケはすぐさま行動に出る事ができた。それは、道中の“異変”に気がついていたことと、疑り深い性格のおかげかもしれない。

 

「それに、サクラも名前もよくタズナさんを守り抜いたな」

「えへへ……」

「やったね、サクラちゃん」

「うん!」

 

きっと、動けなかったのが悔しかったのかもしれない。ナルトくんはぎりり、と歯を噛み締めていた。

 

「怪我はねーかよ、ビビリくん」

 

ほらほら、そうやってナルトくんを煽らないの。先程の敵が、武器に毒を塗っていることは安易に予想がつく。現に、カカシ先生も毒の存在に気が付き、極力武器の刃に触れないよう攻撃を仕掛けていた。サスケくんに煽られて、噛みつこうとしたナルトくんを私は制止する。

 

「ナルト!喧嘩はあとだ!お前は早く毒抜きする必要がある、傷口を開いて、毒血を抜かなくちゃならない、だからあまり動くな、毒がまわる」

「……!」

 

ナルトくんだけがその攻撃を直接腕に受けてしまっていたので、毒を出す必要があったのだ。どんな毒かも分からない以上、任務を続けることは不可能。木の葉の病院に戻って治療を受けるべきだろう。そう、普通ならば。

しかし、その前に話さなければならないことがあった。カカシ先生は、タズナさんに向き直ると、話を続けた。

 

「タズナさん、ちょっと話があります」

「な、何じゃ……」

 

囚われた忍者は、霧隠れの中忍だった。霧隠れの忍は、いかなる犠牲を払ってでも戦いを続けることで有名な忍らしい。木にくくりつけられた彼らは、恨めしそうにカカシ先生を見上げた。

 

「なぜ我々の動きを見切れた」

「数日雨も降っていない、今日みたいな晴れの日に、水たまりなんてないでしょ」

「あんた、それを知っててなんでガキにやらせた?」

「私がその気になればこいつらくらい瞬殺できます……が、私には知る必要があったのですよ、この敵のターゲットが、誰であるのかを」

 

ああ、そういわれてみればそうかもしれない。何しろ、この班は下忍の中でも特殊な人たちが寄せ集められている。1人は木の葉の人柱力であるナルトくん。まだ制御出来ていないとは言え、この力を削ぎ落とせば、木の葉の力はかなり落ちる。次にサスケくん。彼はうちは一族で、その瞳術は今も他里の忍からは恐れられ、狙われる一因でもある。そして最後は私、木遁使い。過去に狙われたことが実際にあって、一度あることは二度あるに決まっている。あるいは、カカシ先生本人の可能性だってある。何しろ、カカシ先生はとても有名な忍者だから。だから、カカシ先生は自分の班の仲間か、それ以外かを見極めたかったのだろう。

 

「つまり、狙われているのはあなたなのか、それとも我々の忍のうち誰かなのかということです、我々はあなたが忍に狙われているなんて話は聞いていない、依頼内容はギャングや盗賊などのただの武装集団からの護衛だったはず……これだと、Bランク以上の任務だ、以来は橋を作るまでの支援護衛という名目だったはずです」

「……」

 

タズナさんはついに言葉をつまらせてしまった。

 

「敵が忍者であるならば、迷わず高額なBランク任務に設定されていたはず。なにか訳ありみたいですが、依頼で嘘をつかれると困ります、これだと我々の任務外ってことになりますね」

「この任務、わたしたちにはまだ早いわ……やめましょう、ナルトの傷口を開いて、毒血を抜くにも麻酔がいるし、里に帰って、医者にみせないと」

 

サクラちゃんの意見はご尤も。

ちらりとカカシ先生がナルトくんを見て、こりゃ荷が重いな、と呟いた。

しかし、次の瞬間。ナルトくんは任務続行のため、自らを傷つけて、毒を出した。

 

「オレがこのクナイで、おっさんは守る、任務続行だ!!」

 

かなり深くクナイを刺したが、ナルトくんの体質を考えれば……。

 

「もう、ナルトくんは心配をかけさせてくれるねぇ……はい、腕を貸してごらん……ヴァルネラ・サネントゥール」

 

ナルトくんには、生半可な毒は効かない。なぜなら、彼のなかには、九尾が封じられているから。彼は、木の葉の里の、人柱力なのだから。悲しい運命を背負い、生きている。少しでもナルトくんが明るく過ごせるよう、私も努力をするつもりだ。ナルトくんに治療の術をかけて、フェルーラで包帯を巻けば、傷口の手当は完了だ。彼の瞳からは、もう負けない、という強い意思を感じた。だからこそ、私はナルトくんを応援したい。彼が頑張れるよう、少しでも手助けをしたい。

 

「毒も、もう大丈夫よ」

「へへ、ありがとうってばよ、名前ねえちゃん」

 

ナルトくんの覚悟が、サクラちゃんや、サスケくんにも、そしてカカシ先生や、タズナさんにも伝わったようだ。その後、私たちはタズナさんから今回の件でこうなってしまった、複雑な事情を聞かされた。

海運会社の大富豪、ガトーという男が、タズナさんの命を狙っているそうだ。裏でギャングや忍を使って麻薬や禁制品の密売、果ては企業や国ののっとりといった、あくどい商売を生業としている男で、ガトーは波の国をあっという間に牛耳り、島国国家の要でもある交通を独占してしまったそうだ。富のすべてを独占しているガトーが唯一恐れていることは、タズナさんが建設中の橋らしく、故にその生命が狙われているそうだ。波の国はとても小さい国で、さらに貧しい国でもある。大名ですらお金を持っていない……となれば、かの有名な火の国の木の葉の里で、高額なBランク以上の依頼などできるはずもなく。

タズナさんも今回の件は、特に命がけだ。もしここで任務を辞めてしまえばそれはそれで、自分が死に、10歳になる孫が一日中なき、木の葉の忍者を一生恨んで寂しく生きていくだけだといわれてしまえば、もう任務を続行する他ないだろう。ここでカカシ先生がついに折れ、国へ帰る間だけでも護衛をしてくれるということで話は決着した。

 

敵に見つからないよう、霧の中を一隻の小舟でしばらく進んでいると、建物らしきものがようやく見えてきた。

 

「おれはここまでだ、それじゃあな、気をつけろ」

「ああ超悪かったな」

 

船の漕手と別れると、タズナさんに案内され、森の中を進む。途中、ナルトくんがなにかに気がついてクナイを投げつけたが、敵らしい敵は現れなかった。しかし、次に投げた時、カカシ先生は何かを感じたようで、今度はその方角をじろりと睨みつけていた。

 

「だから、やめろー!!」

「ぐがぁ!!」

 

サクラちゃんに思いっきり殴られるナルトくんを横目に、カカシ先生はナルトくんが投げたクナイのある茂みに分け入る。すると、そこには白い一羽のうさぎが倒れていた。

 

「ナルト!なんてことするのよ!」

「なんだウサギか!」

「ウサギ?へぇ~かわいいね」

 

カカシ先生だけはとても警戒していて、それにはサスケくんも気がついたようだ。私は、倒れた白いウサギを見つめて、思わず撫でる。ふわふわしてきもちい~。

気の抜ける奴らだな、とサスケくんのボヤキが聞こえてきた。そう、わざとだ、わざと。隙きを見せているふりをしている。攻撃に関しては、カカシ先生やサスケくん、それにナルトくんもいる。ならば、ここは守りに徹するものが必要となる。そうすれば、カカシ先生も攻撃に専念することができるからだ。守りに関してはこの中でも自信があったので、私はいつでも防御系の土遁を発動する準備ができていた。サクラちゃんは私と一緒にタズナさんを守るため、近くにいてもらおう。

 

「全員伏せろ!!」

「「「……!」」」

「土遁、土流壁!」

 

どこからともなく、巨大な鉄の塊……まるで包丁のような形をした剣がぶっ飛んできた。それは、カカシ先生めがけて飛んできて、その後、私達のいる方向へと移動してきた。すぐさま土遁で防御壁を張り、剣を弾く。

 

「へぇ、こりゃこりゃ……霧隠れの抜け忍、桃地再不斬くんじゃないですか」

 

敵の姿が明らかになる。顔半分を包帯でぐるぐる巻の男……名を、桃地再不斬といい、彼はカカシ先生曰く、霧隠れの抜け忍。これだけ警戒するのだから、あの男はとても強い敵に違いない。あのカカシ先生が、ついに額当てを持ち上げ、写輪眼を使うと決めた程だ。写輪眼のカカシという異名は、他里でも有名な名前だった。それだけ、カカシ先生は強いということ。何しろ、あのテンゾウやイタチくんの先輩でもあるのだから。

 

「写輪眼のカカシと見受ける……悪いが、じじいを渡してもらおうか」

 

写輪眼、という名に、サスケくんがすぐさま反応を見せる。そうか、サスケくんは、カカシ先生が写輪眼を持っていることを知らないのか。私もどういう理由で、うちは一族ではないカカシ先生が写輪眼を持っているのかは分からない。ただわかることは、カカシ先生がとんでもなく強いということ。だから、私は守りに徹しよう。

 

「名前、ナイスだ。お前ら、卍の陣だ、タズナさんを守れ」

 

私たちは、戦いには加わるなと言われ、汗をにじませるナルトくんたち。もちろん、私だって脂汗ダラダラだ。タイミングが少しでもずれていたら、タズナさんの身体がバラバラになっていたかもしれない。

 

「再不斬……まずは俺と戦え」

 

今まで見たことのない、カカシ先生の殺気立つ姿。それを見て、私は戦慄が走った。ああ、これが“写輪眼のカカシ”なのか、と。

 

「ほー……噂に聞く写輪眼を早速見れるとは……光栄だね」

 

写輪眼が何なのか分からないナルトくんに、サスケくんは再不斬の動きに警戒しながらも、説明してくれた。いわゆる瞳術の使い手は、すべての幻・体・忍術を瞬時にはねかえしてしまう眼力をもつとされ、写輪眼とはその瞳術使いが特有に備えもつ瞳の種類の一つ……しかし写輪眼の持つ能力はそれだけではない。その目で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだってできる。もちろん、“血継限界”系はコピー出来ないが。私の使う木遁がいい例だと思う。木遁は、その何らかの因子がなければ使えない……といわれている。だから、木遁の研究で初代火影、千手柱間の細胞を移植する実験などが行われていたのだった。まぁ、移植しても成功者は1人だけだったらしい。それが、テンゾウだったりする。はじめは、そんな恐ろしい実験が行われているなんて信じたくはなかった。だから、突然何でもない家系の私が、木遁を使えてしまうことが異常なだけで、セクハラジジイが喉から手が出るほどほしい存在であることはちゃんと自覚している。私を研究していれば、もしかしたら、先天的な木遁使いを誕生させることができるかもしれないからだ。それも、今のところ火影様が阻止してくれている。今の火影様がいなかったら、やばかったかもしれない。と、まぁ、木遁の話は置いておいて……問題は、目の前のこの抜け忍の男だ。わざわざ頼んでもいないのに、カカシ先生がいかにすごいかを説明してくれたおかげで、サクラちゃんたちはようやくカカシ先生がすごい忍者であることに気が付いたようだ。サスケくんは、少し別の事を考えているようだったが。

 

「さてと、お話はこれぐらいにしとこーぜ、オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねぇ……つっても、カカシ!お前を倒さなきゃならねぇようだな」

 

すると、男はかなりのチャクラを練り始める。そして、霧隠れの術という忍術が発動し、男は目の前から姿を消してしまった。これには私達も動揺を隠せずにいる。

 

「まずは俺を消しにくるだろうが……桃地再不斬、こいつは霧隠れの暗部で、無音殺人術の達人として知られた男だ……気がついたらあの世だったなんてことになりかねない、俺も写輪眼をすべてうまく使いこなせるわけじゃない、お前たちも気を抜くな!」

 

バクバクと心臓が脈打つのを感じる。気が動転していると、上手に術を発動することが出来ない。だから、私にまず必要なことは、心を落ち着かせることだった。

再不斬は霧隠れの術によって姿を隠し、いつでもこちらを殺しにかかるつもりでいるようだ。

しばらくして、ついに動きを感じたのか、カカシ先生から恐ろしいほどの殺気が放たれる。これにはみんな、恐怖で怖気づきそうになるものの、なんとか足を踏ん張った。しかし、その様子にカカシ先生も気がついてくれていたようで、先生自身もあまり余裕が無いというのに、ちゃんと私達を気にかけてくれていた。

 

「サスケ……安心しろ、お前たちは、俺が死んでも守ってやる、俺の仲間は、絶対殺させやしなーいよ!」

 

その言葉に、はっとする。初めての実践で、しかも忍者との戦いでも、私達が安心できるよう声をかけてくれたのだった。私だって……足がガクガクして、今にも倒れてしまいそうだったけれども……今度こそ、友達を守る。そう、決めたのだから。一歩踏み出し、声を上げる。ちゃんと、みんなにも響くように。

 

「サスケくん、サクラちゃん、ナルトくん、そしてタズナさん、頼りないかもしれないけれども、私もみんなを、しっかりと守るから!」

 

だからカカシ先生、守りは任せてください!そう叫ぶと、再不斬が不気味に笑った。

 

「クックック、面白い女がいるな……確かに、そこにいるガキどもの中では、それなりに術が使えるようだな……」

 

霧が濃くなった頃、ついに攻撃がはじまった。再不斬の水分身に騙される事なく、的確に急所を狙っていく。さらに、戦いの途中で見せた再不斬の水分身の術も一瞬でコピーしてしまうスゴ技も見せてくれた。

 

「うごくな……終わりだ」

「す、すげぇ……!!」

「はは……」

「……」

 

だが、簡単にはやられてくれるような相手ではなかった。水牢の術に嵌められてしまい、カカシ先生は身動きが取れなくなってしまった。ここでカカシ先生を救い出すべく、同じく水遁をぶつければ水牢を解除することができるかもしれなかったが、仲間たちを守るための忍術に徹しなければならないため、援護射撃は難しそうだ。

 

「お前らぁ!タズナさんを連れて早く逃げるんだ!こいつとやっても勝ち目はない!俺をこの水牢に閉じ込めている限りこいつはここから動けない!水分身も本体からある程度離れれば使えないはずだ!だから、とにかく今は逃げろ!」

 

その言葉を聞いて、色々と考えた。たしかにタズナさんを連れて逃げた方がいい。しかし……逃げたところで、あいつに仲間がいたらどうしようか。1人だけで動いているようには思えなかったので、私はカカシ先生のもとへ飛び出していったナルトくんを見送る。もしかしてこれは、私達が大きく成長するための試練かもしれない。強い敵に立ち向かっていくナルトくん達を見てそう感じた。ここは、カカシ先生も水牢から助けて、みんなでこの男を倒す必要がある。でなければ、次の敵が現れた時、私達だけでは敵う自信がない。それに、カカシ先生は私達を死んでも守ると言ってくれた。ならば、私達にとって先生も大切な仲間。

 

「おいそこの眉なし、お前の手配書に新しくのせとけ!いずれ木の葉隠れの火影になる男……木の葉流忍者、うずまきナルトってな!!」

 

ナルトくんの見せた根性に、サスケくんもようやくいつもの彼に戻ったようだ。もう、怯え震える子供ではない。

 

「サスケ、ちょっと耳貸せ!」

「何だ」

「作戦がある」

「フン、あのお前が、チームワークかよ」

 

おいおい、それを君が言うか?思わず心の中でツッコミをいれる。

 

「ナルトくん、サスケくんと全力で暴れて来て大丈夫だよ!」

 

タズナさんはサクラちゃんと守るからね。そう言うと、サクラちゃんも力強く頷いた。

 

「クク……えらい鼻息だが、勝算はあるのか?」

「お前ら何やってる、逃げろって言ったろ!名前!お前ならタズナさんを連れてナルト達とここから逃げ出せるはずだ!俺が捕まった時点でもう白黒ついている、俺たちの任務はタズナさんを守ることだ!それを忘れたのか!?」

「……もとはといえば、ワシがまいた種、この期に及んで超命が惜しい、などとは言わんぞ。すまなかったなお前ら……思う存分に闘ってくれ」

 

タズナさんも、ここに残る覚悟を決めたようだ。ならば、早いところ、カカシ先生があの水牢から抜け出すチャンスを作らなくては。私とサクラちゃんはタズナさんを守るようにして構える。

 

「と言う訳だ」

「覚悟はいいな」

 

クックックと再び不気味な笑い声を漏らす再不斬。彼は、ナルトくんたちの年齢ですでに暗部にいて、その手を血で紅く染めていたらしい。霧隠れの里が、かつて“血霧の里”と呼ばれていた時代、忍者になるための恐ろしい卒業試験が存在していた。その試験が大変革を遂げざるをえなかった事件が起きた。それは、幼き頃の再不斬少年によって、100人を超える受験者が殺し尽くされたという大事件だ。あれは楽しかった、とサイコパスな笑みを浮かべる男を横目に、私は静かに水遁で透明の膜を貼った。これで、タズナさんが重症を負うことはないだろう。

 

随分と自分語りが好きな男だな、なんて思う。別に頼んでもいないのに、自分の武勇伝を語ってくれるなんて。見た目はとても無口そうだったのに。と、まぁそんなことはどうでもよくて。どうでもいい事を考えられるまでには、心に余裕を作る事ができた。私の場合、扱う術の難易度が高めなので、心の余裕がとても大切だった。

苦戦が続いたが、ナルトくんとサスケくんのスーパーコンビネーションのおかげで、カカシ先生が水牢から抜け出す隙きを作ることが出来た。そのおかげでカカシ先生は水牢から抜け出し、再不斬を追い詰めた。だが、最後に一撃を食らわせたのは霧隠れの追い忍だった。細い針のような武器……千本で首を狙われ、再不斬はあっけなく死んでしまった……多分。ちなみに追い忍には、里の裏切り者……抜け忍などを暗殺、処理する役目などがある。だからそれなりに強くて当然ではあるが、まさかこんなに、呆気なくあいつがやられるなんて。私達の苦労は一体……。