07 ロングボトムの仕立て屋/エニエスロビー

どう判断すべきか、海軍も悩んでいる様子。“保護”すべき“魔女”の名前がルフィを助け、そしてそのまま麦わらの一味をみすみす逃してしまったことに対して…誰がどう責任を取るのか。海軍大将、青雉―――クザンはある男と連絡を取る。

「どうするのよ、これ」
「……すみません、クザンさん…彼女は、助けてください」
「―――殺すわけにはいかないでしょ、お前も、彼女もあの人たちの所有物だ…だが本当にいいのか、彼女を、こちらに連れてきて」
「―――」

こうするしか、彼女を守るすべはない。しかし本当の所はどうだろうか、この事件があり彼も答えを見失いつつある。正義の天秤の間で揺れる彼に、クザンはため息を漏らす。彼を見ていると、若い時の自分を思い出す様で時々嫌になる。

「お前の気持ちはよくわかるよ…俺も似たようなもんだ、ま、帰ったらゆっくり酒飲もうぜ」
「…ありがとうございます、クザンさん」

本当に、一味には手を焼かされる。
あそこを脱出できたなんて、まさに奇跡だ。バスターコールから逃れるなど…。とりあえずまぁ、あいつが骨抜きになるほどの娘なんだから、相当かわいいに違いない。こんな遠巻きの写真じゃわからねぇしな。
まだアクアラグナの傷跡癒えぬウォーターセブンでクザンは一人ほくそ笑む。

彼の言うように、麦わら一味の脱出はまさに衝撃を与えた。どこからともなく現れた彼らの船…ゴーイングメリー号に乗って軍艦の目の前を通過していった。さらに誰一人として倒れることなく…まさに、海軍は麦わらの一味に完敗した、という訳。ここでの最大の過ちは、スパンダムを上に置いてしまった上層部の認識の甘さ。置くコマを間違えれば、どうなるか。見事に敗北を招いた彼らはしっぽをまいて退散した…のんきに食事をしている彼らはそう思っていた。だが、次の瞬間、恐ろしい速度でルフィが壁に吹っ飛ばされる。モンキー・D・ガープ…ルフィの祖父の登場だ。彼らにひと騒動が起こっているとは知らず、名前は店じまいの支度をしていた。

「本当に、行っちまうのか」
「はい、なんだか狙われているらしいので…」
「そうか…」

お前ぐらいは匿える、アイスバーグもそう声を掛けようとしたが今回の事件を改めて思い出し、いい留まる。今回の事件は、古代兵器の設計図を廻り起こった事件。過去、CP8が彼らの恩師を殺し終息したかに思えたが、今回CP9の登場により尚も古代兵器の設計図をあきらめていなかったことが分かった。だとすれば、政府が簡単に手を引くはずが無い。アイスバーグもよくわからないが、彼女は世界政府のさらに上の奴らが喉から手が出る程欲しがっているという存在―――フランキーですら守れなかったのだから、ここで彼女を守り切れる自信はない。

「次は…どこへ行くんだ、いや…聞かないほうがいいか」
「また、落ち着いたら遊びに来ます」
「そうか…気を付けろよ」
「ふふ、こう見えても私、たくましいんですよ」

何しろ、あの戦いを潜り抜けてきたんですから。蘇るは悪夢のような日々。命を狙われ、仲間を守り―――そして、多くの犠牲を払って手に入れた平和。平和になったと思ったのに、気が付いたら見知らぬ世界に来ていて、見知らぬ人に狙われて―――。

「ンマー…そういや今日、麦わらたちが宴を開くらしい…遊びに行ったらどうだ?」

どうせ連日ろくに食事もとれてないだろう。そういわれ、スナックしか口にしていない事を思い出す。食事に余裕が取れない程緊迫した日々を過ごしてたから無理もない。ロシナンテが丈夫なフクロウで本当に良かったと思う。

「―――助けてくれたお礼も言いたいし、ここを片したら行こうかな」

ね、ロシナンテ。そういうと、彼は短く鳴いた。
そして日が暮れた頃、ようやく荷物をまとめることが出来た名前は、トランクを片手にガレーラへと向かう。目指すは宴会会場。ロシナンテの籠はトランクにしまってあるので、彼は今名前の肩に止まっている。そういえばルッチたちは無事だろうか。ガレーラの門を見て、ふと思い出す。

「―――ま、あの人たちも頑丈そうだったし…大丈夫でしょう」

きっと、もう二度と会わないだろうが。

「やっときたな名前!お前ここ出ていくって本気か!?」
「ちょっとパウリー、声が大きいってば…」
「お、すまねぇ…」

その通り。そういうと、彼は寂しそうに眼を細めた。

「そうか…」
「落ち着いたらまた遊びに来るよ」
「おう、いつでも“帰ってこい”」
「―――ふふ、ありがとう」

何かっこつけてるんだ、パウリー。奥からタイルストンの声が聞こえてくる。

「てめ、うるせぇ、あっち行ってろ!!」
「あ!!きみは名前すわん!!!!!!今日のお洋服もかわいいねぇ~~~~~~」

さらに、後ろのほうからトルネードのようにグルグル回りながら駆け寄ってくる青年が一名…あれは麦わらの一味のコック、サンジだ。目をハートにしているのですぐに分かった。

「ありがとうサンジ、コレ、自分で仕立てたんだ」
「へぇ~~~名前すわぁんは仕立て屋さんなんでしょ~~~~???俺のお洋服も作ってぇえ~~~~?」
「うん、いいよ、助けてくれたお礼もかねて」
「やったぜええ!!!!!じゃあ、あっちへ行こうか」
「ちょっとまてゴルァア!!」
「なんだロープ男???」
「なんだじゃねぇ、その手どけろぉおお!!」
「なんだとコラっていてぇええええこの糞フクロウ!!何しやがる!!!」
「ギーギー!!!」

―――本当に賑やかな人たちだ。こんなに笑ったのいつぶりだろう。ここに来て初めてかもしれない。腹を抱えて笑い転げる名前の姿に、パウリーはジーンとくるものを感じていた。ここに来て彼女のそんな姿を見るのは初めてのことだ。いや、むしろ今まで心の底から笑えてた事なんて彼女にはなかったんだ。彼女がこうして笑っているのもきっと…あいつらのお陰か。悔しいことに、パウリーはある決心をした。彼女を、麦わらの一味に託すという決心を。きっと彼らならば、あんなに強い彼らならば彼女を守ることだってできる。悲しませることもないだろう。寂しいが、仕方がない。ここには彼女を守れるだけの力はない。なにより、あの賑やかな麦わら一味に居れば…きっと彼女ももっと笑うようになるだろう。彼らと、名前の小さくなっていく背中を見送り、パウリーはうつむいた。

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