それは夏が終わり、明日から9月に入るという頃だった。
僕は嫌な予感がして急いで仕事を切り上げた。引かない汗を拭うことも忘れただ走った
玄関に入ると、一通の手紙を持った老人が立っていて――――――
「兄さん…おかえり、このおじいさん、おれたちの両親の知り合いなんだって。」
「…ああ、知ってるよ――――何故、何故来たんですか、アルバス・ダンブルドア」
おれはいつものように部屋の掃除をしていた。明日から新しい学校だ、そう思うと居ても経ってもいられなくて。
相変わらず昼間はリリーと遊んでいたが、リリーの表情が暗かったので、何があったのかと聞くと何も答えてくれなかった
こういう場合はどうしたらいいのだろうと悩んだ挙句、いつもより早い時間でわかれることになった。また明日な、そう言うとリリーは複雑そうな顔で笑っていたな
「―――マリー、今日はお客さんが来てるのか?」
ドアを開くと不思議な匂いがした。だからお客さんが来たのだと思ったんだ
マリーはお客さんにちょうど紅茶を出しているときで、こちらに気がついておかえり、と笑った。
「父さんと母さんのお知り合いなんですって」
「父さんたちの・・・?」
「フォッフォッフォ、わしはアルバス・ダンブルドア。とある学校の校長じゃよ」
おれはこの人物が最初どこの学校の校長先生なんだろうとのんきに考えてた。
「名前、魔法使いって本当にいたのよ!この人、本当に魔法使いなの!」
今、マリーは何と言っただろうか。おれは一瞬放たれた言葉に耳を疑った。
すると老人は細い棒らしきものを振ると、一瞬で机の上にケーキを登場させた。今起きたことが科学で証明できないのならば、何で証明したらよいのだろうか
マリーはそれをみて喜んでいるし、老人は相変わらずフォッフォッフォという笑い声を上げている
「―――名前、君は魔法使いなんじゃよ」
リリーが魔女だったということは、本当だったんだな・・・
名前は自分がそういう状況になってようやく理解した。だがこれは夢ではないだろうか、頬をつねるとやはり痛かった
「マリーや兄さんや姉さんも…?」
そう言うと老人は笑いながら頷いた。
「だけど、魔法学校に通えるのは名前だけなんですって。わたしは魔女だけど、魔法が使えない魔女らしいから。だけど内心ほっとしてるんだ、この家を離れなくちゃいけないし・・・」
ちょっとまって、おれ、全然話についてゆけてないよ
魔法学校に通う?家を離れなくてはいけない?そんなことになるならおれだってそんな所行きたくない!
混乱する名前を余所に老人は話を進める。
「マリーにはもう話しておるんじゃ、君らのことを。君らのご両親が魔法使いで、君らの中には魔法使いの血が入っておることを。じゃがの、ホグワーツにマリーやリチャードは来ることはできても魔法を使うことができんのじゃ・・・じゃから学校に通うことはできんのじゃ」
「なんで・・・何で魔法が使えるからってそんな学校通わなくちゃいけないんだよ、おれは家族と過ごしていたいんだ!!勝手に決めるな!!」
「―――これが、君らを守るための最善の方法なのじゃ・・・ご両親が何故君らとともに家を出たのかいずれ知るときは来る、じゃが今はその時ではない。明日から名前、君はホグワーツに通うこととなる」
何がおれらを守るための最善の方法なんだ?何から守るっていうんだ?父さんたちは家を出たってどういうことだ?
何もかもわからない!簡単に説明してくれよ!
その後老人はホグワーツ魔法魔術学校のこと、自分がそこの校長であること、1年が終わればまた家に帰ってくることもできるしクリスマス休暇には家にも帰ってこれるなどという話をした。
未だに床に座り込む名前の背中をマリーがちょこんと叩いた。
「名前、ホグワーツ魔法魔術学校に通ってきなよ、しばらくの間会えないのはさびしいけど、わたしも魔法を勉強してみたいからわたしに教えられるぐらいになるように頑張って勉強してきてね!」
マリーは笑顔でそう言うが、名前はいまだに納得できていなかった。家に自分がいない間、兄さんが帰ってくるまでマリーは一人ぼっちじゃないか
それを察したのかマリーは一人でも大丈夫だから、行って来いと名前の背中を強くたたいた。
「…おれ、嫌だよ」
「ダメ!!わたしホグワーツには通いたくないけど魔法は勉強したいの!それなりの成績をとってきなさいよね、行くんならば。そしてわたしに魔法をおしえなさい」
これは強制なのか?マリー、お前だけはおれの味方なんじゃないのか?
背中を強く叩かれて思わず涙が出そうになった。ああこの子はいろんな意味でも強く育ったんだなと感じる
「そんな、強引すぎるだろ。マリーは家で一人になるけど、さびしくないのかよ」
「―――さびしいに決まってるでしょ馬鹿!でもわたしには兄さんがいるし・・・名前こそ、さびしいんでしょ?」
「当り前だろ!いつも一緒にいたのに――――いたのに…」
もう誰かがいなくなるとか、そんなの嫌なんだよ。
名前は顔をうつむかせる。
「まったく、男の子なのに弱虫ね。別にいなくなるわけじゃないでしょう?クリスマスには会えるんだし、辛抱しなさい」
本当にマリーはおれの妹なのだろうか・・・なんだか、嬉しいような悲しいような・・・
ようやく顔をあげた名前はマリーの顔を見て笑った。
「わかったよ、そこまで言うなら通うよ、成績は・・・自信ないけど」
そう言うと、すべて良をとらなくては絶交してやるとまで言われてしまった。これは何が何でもいい成績をおさめなくてはならないようだ…
「フォッフォッフォ、名前、君なら大丈夫じゃろう」
そんな不確かなこと言われても嬉しくはない。これから勉強地獄と、慣れない寮生活がまっているのだから。
しばらくすると、誰かがかけてく音が聞こえてきた。あ、兄さんだ
兄さんを迎えるべく玄関へ向かうとそこには汗だくの兄さんが立っていた。
「―――おかえり兄さん、このおじいさん、おれたちの両親の知り合いなんだって」
そう言うと兄さんは憎らしげにダンブルドアを睨みながら放った。あの兄さんが、こんな怖い顔をするのははじめてだ
マリーと名前は一瞬縮こまってしまった。
「…ああ知っているよ、何故――――何故来たんですか、アルバス・ダンブルドア」
兄さんはこの人のことを、知っていたのか―――?
ガタン、ゴトンと列車は揺れる。9と4分の3番線だなんて、ふざけた名前だよなぁ
名前は列車の最後尾のコンパートメントに腰をかけた。ああこれから寮生活か、それに…兄さんを怒らせてしまった…
目を瞑るとあの場面が思い浮かぶ。
ダンブルドアに対しての敵意むき出しの視線。
「―――名前は、そんな変人たちのいるところへは連れていけません。この子も、普通に生活するんです、僕らと!」
兄さんがここまで怒りをあらわにするなんて初めてだ。いつもは穏やかな兄さんがこんなにも・・・
マリーと名前は二人のやり取りをただ見ていることしかできなかった。
「ダンブルドア、この子をあそこへ連れて行って、ハンナ姉さんのような目に合わせるつもりなんですか」
ハンナ姉さんも通っていたのか――――だが、兄さんはどうなんだ…?
「彼女は・・・辛い思いをしたの、彼女をかばいきれなかったわしの不甲斐なさのせいじゃ・・・」
「姉さんはいつも自分がいけないのだと責めていた…!父さんも母さんも、そんな姉さんを見ていて、いつもつらそうな顔をしていた…!」
一体、何があったんだろう…ホグワーツに通って、ハンナ姉さんはどんな傷を負ったのだろうか。
「あそこには…昔の偉人の血が自分に流れているからと威張っている馬鹿がいる、あの世界には昔の偉人の血が流れているからとレッテルを張る馬鹿がいる!そのせいで―――姉さんは!父さんや母さんは!」
突然リチャードがダンブルドアにつかみかかった。こんなにも形相を変えて怒鳴り散らす兄の姿なんて、今後もう見たくはない
「せっかく魔法界と縁を切ったと思ったのに…また僕らをその地獄へ追いやるんですか…あなたはわかってない、あの一族が僕たちのことを見逃さないことを……あなたは、なめている・・・」
「…わかっておる、その辺は生前の君らのご両親と相談はしておる。じゃが、これが最善なのじゃ…名前が魔法を学び、ホグワーツを卒業して一人前の魔法使いとなる、そうすればまた君らは平和に過ごせるのじゃ」
「―――そうですね、僕はスクイブですから、ホグワーツには通えませんですしね。だから唯一魔法力のある名前にあっちの世界のことをすべてを押しつけるしかできない、そう、言いたいのでしょう…!」
窓の外を見ると景色が田園風景になっていた。
ハンナ姉さんもこの景色を7年間も眺めていたのだろうか
兄さんは―――自分はスクイブだと言っていた。スクイブとはなんとなく、魔法を使えない魔法使いのことなんだと思った。だとすれば、マリーもスクイブなのだろうか
何故おれだけ魔法力があるんだ。二人にないのならばおれもいっそのことなければよかったのに。おれに魔法力がなければ兄さんがあんなに怒鳴り散らすこともなかった。
家を出る時、兄さんが泣いていた―――――あの、兄さんが
お前にばかり辛い思いをさせてごめん、そう言いながら泣いていた。
おれはむしろ兄さんのほうが辛い思いをしているんじゃないかと思う。ハンナ姉さんの学生時代の頃はおれたちがまだ幼かったころだから詳しくは知らないけれど、兄さんはハンナ姉さんと2歳しか離れて無かったからいろいろ知ってるんだろう。
兄さんがおれたちが魔法使いであることを黙っていたにはきっと深い理由があるんだろう、時が来れば教えてくれるに違いない
それに、おれが無事ホグワーツを卒業して一人前の魔法使いになればまた今までのように平和に過ごせるんだから。おれが頑張るしかない
名前は揺れる列車の中で、揺るぎない決意をした。5分くらいだろうか、コンパートメントをノックする音が聞こえ、返事をすると思いがけない人物が顔を出した
「―――名前!あなた!魔法使いだったの?なぜ教えてくれなかったの?」
「リリー・・・おれだって、昨日言われたばかりなんだ。それにしてもリリーも同じ学校なんだな」
「名前はわたしが魔女だって知ってたの…?」
「ああ、ペチュニアからマリーへ、マリーからおれへって感じで伝わってきたよ。」
ペチュニアの名前を言ったとたん、顔を急に曇らせた。きっと公園で見たあの光景の後よくない出来事がおこったに違いない…
名前はあえて何も聞かないようにした。そしてこれからの、明るい話をすることにした
「寮生活って初めてだから心配なんだよね、おれ、友達がいてよかったよ」
「嬉しいわ・・・わたしもとっても安心したわ」
リリーがそう言ったとき、再びコンパートメントを叩く音が聞こえた。
「他空いてないんだ…失礼するぞ」
随分ぶっきらぼうな言い方だ。名前はその少年が自分の隣に座るのを見ると再びコンパートメントにノックオンが響いた。
「ここいいかな?」
くしゃりとした癖っ毛で眼鏡をかけた少年は人懐っこい笑みでコンパートメントに入ってきた。おれ、こいつとなら仲良くできるかも
正直隣の奴、なんか雰囲気怖いし・・・
「君たちは?僕はジェームズ・ポッター!」
「名前・レパードだよ、よろしく」
「…シリウスだ」
すると、ジェームズはリリーに向き直って名前を聞いた。
「リリー・エバンズよ」
リリーはこの少年が苦手なのだろうか、体を窓側に押し付けている
自己紹介をしてしばらく、ジェームズとシリウスは何かにぎやかに話していた。
名前とリリーは何かを話すわけではなく、ただ列車に揺られていた
丁度名前が眠ろうとしたとき、コンパートメントが再び開かれた。
入ってきたのは思いがけない人物で、名前はしばらく気がつかなかったがリリーがその人物の名前を呼んだ時、はっと気がついた
――――そうだ、こいつ、セブルスだ
顔を見上げるとローブを身にまとったセブルスが座っていて、こちらの顔を見てお互い同じ顔をしていた
「―――お前、何でここにいるんだ」
「おれも魔法使いだったらしいよ、昨日家に校長が来てさ。」
「校長がわざわざ…?何故手紙じゃないんだ?」
「みんなは手紙でこの事を知ったのか?」
そう言うとリリーは小さく、ええ、と答えた。
つまりおれは特殊だったのか・・・