05 ロングボトムの仕立て屋/エニエスロビー

司法の塔…エニエスロビーは不夜島の為年中無休で昼間のように明るい。だから今が夜中だったとしても太陽が燦々と照っているので体のバランスが崩れてしまいそう…というのがここに来た時の感想。名前はようやくテッドから解放され、籠にいるロシナンテを抱きしめる。

「これから何処へ連れていかれるの、私たち」
「名前さんたちはこれから別の軍艦に乗って移動するんだ」
「―――あの、さっきの人たちは?」
「彼女たちとは別の軍艦だよ…何しろあなたは罪人でもなんでもないのだから」

保護対象、そういったでしょう?そう笑うテッドを不審な目で睨みつける。

「あ、ちょっと傷ついた…」
「ちゃんとした理由があるんでしょうね」
「ありますよ―――あなたは、いや、“あなたたち“はこの世界で唯一の魔法使い―――”あなたたち“の力は政府にとって脅威となるもの…しかし、これが味方となれば話は別。世界の為、その力を貸してください」

感情のない瞳でそういうテッドはどこか恐ろしくもあり…自分を偽っているかのように見えた。なんだか、本当に読めない男だ。列車の中とは違う表情を見せる彼に、少なからず名前は動揺している。

「ここにいてください、名前さん」
「…わかった」

杖とトランクは、後で返しますから安心してください。そう言い残して彼は去っていった。

「はぁ…一体、何なのかしらね…心配してくれているのね、ありがとうロシナンテ」

あなたがいてよかった。
暗い部屋の中、名前はロシナンテを抱きしめた。

「うわっ、何!?」

ここに連れてこられて暫く経った頃、突如建物が揺れ始めた。と、いうより外がかなり騒がしいような気がする。

「名前さん、急遽予定変更、別の軍艦が来れなくなっちゃったから彼らと同じ軍艦で移動するよ!」
「え?な、なに?」

逃げるそぶりを見せたらわかるよね?そういわれ、静かにうなずくことしかできなかった。裏の道を進んでいくと、何やら前のほうから男の話し声が聞こえてきた。あの男は確か…ここの偉い人だ。簡単に自己紹介はされたが、名前は憶えていない。

「すみません、遅くなりました」
「ったく、おせぇぞ何していやがった」
「これを運んでいたんですよ、ほら」

彼の右手にはロシナンテの入った鳥かごと、その少し後ろには名前がいた。トランクは別の場所にあるらしく、別の部下に取りに行かせているらしい。

「“保護対象”の“魔女”か、ったく、めんどくせぇな、こんな時に限って」
「でも評価されますよ~なにしろ政府が喉から手を出すほど欲しがっていた“魔女”ですからね~」
「おしゃべりが過ぎるぞ、テッド」

何度言わせる。殺気の込められたその声の先にひるむことなくテッドは笑う。

「はい、わかっていますよ“先輩”。もう黙ります」
「―――お前らぼさっとしてるな、さっさと行くぞ」

と、CP9の長官スパンダムの一声で再び彼らは歩き出す。こつ、こつと足音だけが響く廊下で名前はちらりと、麦わらのルフィの仲間、ニコ・ロビンに視線を向ける。

「―――」

彼女も名前の視線に気が付いたのか、ちらりと視線をよこし、そして前を向く。考えていることは同じかもしれない。どうやってここから逃れるか…彼女の場合、罪人として連行されているので命がけだろう。いや…場合によっては私も命がけなのかも。相変わらず彼の意図を読めずにいる名前は、どうやって逃げるか脳みそをフル回転して考えているが、どれも安全な方法ではなかった。ロシナンテが捕まっている以上、下手な動きはできない。しばらく考え込んでいると、突然後ろのほうから獣のうめき声のようなものが響いてきた。何だろう、とニコ・ロビンも思わず振り向く。

「おい急げ、何を立ち止まっているんだ、ニコ・ロビン」
「スパンダム殿、聞こえませんか?この声、なんだか獣の声みたいですね」
「聞こえてるわ!!それがどうした!」
「急ぎましょう、ただそれだけです」

おい、聞いているのか!生きているだけで犯罪女―――この男は、確かに彼女にそう言った。なんてひどい言葉の暴力だろうか。彼女が何者なのかはよく知らないが、とても悪い人には見えない。この男たちのほうがうんと悪い人に見えるのは気のせいだろうか。

「どうしたんですか名前さん」
「お腹がすいたの。お陰様で何にも食べてないから」

こういう時は、悪い空気を壊すに限る。突然脈略もなく腹が減った、と言い出した彼女にここの長官、スパンダムは呆れたように声を漏らす。

「はぁ~、お前のんきな奴だな…ったく、上の奴らもどうしてこんなのを手に入れたがるかね…ほら、さっさと行くぞ」

時間がねぇんだから。彼の言う通り、時間はなさそうだ。すぐ近くまで彼女の“仲間たち”が近づいてきているので彼が道を急ぐのもわかる。ちらりと横をみると、ニコ・ロビンと再び視線が合う。なんとなく、彼女はありがとう、と言っているような気がした。

「ロビン―――――!!」

少年の叫び声が聞こえてきた。もしかして、彼が“麦わらのルフィ”だろうか。顔色を変える彼女の様子からして間違いなさそうだ。その声を聞き、ルッチがその場を離れた。彼の元へ向かったのだろう。

「おいテッド!貴様はここから離れるなよ!!俺を守れ!!」
「―――僕に下された命令は、“魔女”を“保護”することですよ…あなたを守る為じゃありません」
「いいから、ともかく俺を守るんだ!一番俺を優先しろ!この中じゃ俺が一番偉いんだ!」

突如喚きだすスパンダムに呆れたようにため息を漏らすテッド。なんだかおもしろいことになってきたわね。名前は彼の手元にいるロシナンテをどうやって取り返すか考えを巡らす。

万が一を考え、さっさと進まなければ、麦わらのルフィがこちらへ来てしまう。あのルッチが負けるはずが無いとは思うが、世の中に絶対という事はない。テッドはワーワー喚き散らすスパンダムに裾を引っ張られながら階段を上がっていく。ちなみに、ニコ・ロビンはしっかりとスパンダムに捕まれており逃げられる状態ではない。彼女は悪魔の実の能力者らしいので、あの手錠さえ壊してしまえば…と思ったが、あの男…テッド相手にどうやって逃げるかが肝だ。ちなみに悪魔の実というのは、この世界にある不思議な実のことで、食べれば悪魔のような不思議な力が手に入るという。しかし、一度口にすれば一生海から嫌われるという金槌体質となる。それでも、その実を手に入れようと世界では躍起になってそれを探している連中が多い。すべて噂でしか聞いたことが無かったが、悪魔の実の力をいくつか目の当たりにしたことがあるので事実なのだろう。

「ちくしょう、なんてこった…こんなところまで海賊に踏み込まれるとは」
「彼ら、中々骨がありますね~いや~久しぶりですねぇこの感覚、流石はあの人のお孫さんだ~あはは」
「笑いごとじゃねぇぞ!!ったく…おい全員応答しろ、CP9、てめぇら一体何やってんだァ!?海賊が一匹ここに来たぞ!?――――ん?聞いてんのか!?おい、返事ぐらいしやがれ!!」

先ほどからスパンダムは電伝虫に話しかけているが、一向に返事は無く―――ん?よく見ればあの電伝虫…金色の輝いている。やはり、政府関係者は特別仕様なのだろうか。などと考えていると、突如顔色を変えたニコ・ロビンが叫びだす。

「―――待って!あなた…それは―――っ」
「ん?……えぇえええええええ!!!!!」
「ちょっ…おいまじか…!!」

ここにきて、あのテッドが慌てるなんて。それに表情からしてただ事ではなさそうだ。初めて彼が動揺した様を見たような気がする。

「ゴールデン電伝虫ィイイ!?」

そう…彼はバスターコールをかけてしまったのだ。ニコ・ロビンの故郷を滅ぼしたとされるバスターコールの威力はすさまじく、その内容は海軍における命令のひとつとされ、本部中将5名と軍艦10隻という戦争クラスの戦力で無差別攻撃を行う命令のことだ。市民がそこにいようが構わない…“殲滅”と“絶対の正義”という名のもとに、それは行われる。つまり、簡単に言えばもう間もなく、この島に住んでいる人が全員死ぬ―――という事。

この男のヘマはしっかりともう一つの電伝虫によって、この島全土にいきわたっている。バスターコールがかかったとわかれば、兵士たちもただ事ではない。早く逃げなくては、待っているのは無残な死だけ。

「よりにもよって、バスターコールをかけちまったぁあああ!!!!」
「ああ~~~~~もう~~~~何してるんですかぁ」

テッドもこの馬鹿な男が行ったことに対して嘆き、声をあげる。バサバサとロシナンテも籠の中で暴れている。それにニコ・ロビンも顔が真っ青。何が何だか名前にはわからなかったが、よくないことが起きたことは間違いないだろう。
ロビンは先ほどのバスターコールを取り消せと叫ぶが、これを取り消すことなどできない…それを知っているテッドは仕方なく中央の放送塔につながっている電伝虫を奪い、兵士たちに命令を下した。

「こちら海軍本部少将テッドだ…今流れたようにこの島にバスターコールがかけられた、命が惜しい兵士たちはすぐ逃げるように、繰り返す―――こちら海軍本部少将テッドーーーー」

と、ついに避難が始まった。少しでも罪のない真面目な海兵を逃がす為テッドは動き出す。

「はぁ、仕方がない…」
「え―――いいの」
「これをずっと持っていると動きづらく、兵士たちを逃してあげられないからね」

そういい、ロシナンテの籠をかえしてくれた。こちらに戻るなりロシナンテはべったり名前に引っ付き離れそうにない。しかしこの男…いま少将と言ったか?少将と言えばそれなりの地位がある筈…道理で隙が無いわけだ。だが、彼はスパンダムとは違い、部下を思い遣る気持ちがあるようだ。

ではスパンダム殿、僕はお陰様で緊急の仕事が出来てしまいましたので、これにて失礼いたします。

「あ、待ちやがれ!俺を一人にするつもりかぁ!?ここで俺は一番偉いんだぞ!?」
「僕は海軍少将ですよ?あなたと同じぐらい偉いんですって、こう見えて」

そう捨て台詞を吐き、去っていった。この女はいいのか保護対象じゃねぇのか!と叫ぶ声を無視して。

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