03 愛憎ロマンス/賢者の石

恐ろしい事態になってしまった。ただのセックスだけならまだしも、問題は時間である。朝、そう、それは生徒たちが活動を始める時間だ。廊下から聞こえてきた生徒たちの声に、名前は顔を青ざめる。いくらここの生徒たちが自分の事を知らなかったとしても、子供の上に立つ教師が朝からこんな状態だなんて……。
アルバスにも、言えない。こんなこと、誰にも話せない。生徒たちの声がしなくなったのを確認すると、名前は力を振り絞りクィリナスを押し飛ばした。ふらふらとした足取りでドアに向かうがクィリナスによって上から抑え込まれ、扉の前で四つん這いとなる。

「いけませんよ、名前、まだ、終わっていませんから」
「だ、も、もう朝ッ―――!」

と、ジュク、ジュクとした疼きが腸内を襲う。よりによって、今薬の効能が大発揮されるとは。これなら部屋の奥で諦めてその行為を受け入れておければよかった。

「ぁあぁッ」

思わず上がった嬌声に、クィリナスはさらに興奮し、思いっきり自身を突き立てる。ず、ず、ずと内臓を押される圧迫感よりも、腸内の疼きのようなものが勝り、名前はあっという間に根を上げてしまった。もっと抵抗してやろうとも思ったが、想像以上にこの肉体は快楽に弱いようだ。痛みなら我慢できたものを、快楽となれば我慢することができない。

「はぁああぅッ……ッ!」

肉壁にクィリナスのそれがこすれる度に、力なき声が漏れる。それにさらに気を良くしたクィリナスは男の弱点でもある前立腺を責めたてる。もはや直接その手でしごかなくとも、名前のそれは見事に反り立っていた。

「ぅうあ……んあぁ……うっ…はぁあッ」
「はぁ……こんなに、貴方の…体が…素晴らしい、なんて」

ず、ず、ずと激しく名前の中を犯す張本人は、あまりの気持ちよさに喜びの声を上げる。抜群の締り具合は、女性のそれとはまったく異なる気持ちよさだ。

「なぁ、なんか声が聞こえないか?」
「え?」

生徒たちが起きている時間であることを忘れていた。名前は今度こそ、逃げようと必死に腰をくねらせるがかえってそれが仇となり、クィリナスのそれを締め付けてしまった。その瞬間、名前の中に熱いものが注ぎ混まれるのを感じる。逃げようとした名前をそのまま仰向けにし、ねっとりと首筋に舌を這わせ、跡を残す。この意味のない、虚しい行為が名前には理解が出来ない。己の所有物だ、と印をつけているつもりなのか。
吐精後の疲れで、クィリナスは暫く息を荒げ名前を見つめていた。名前はかというと、必死に生徒がその場からいなくなるのを願い、音を立てないよう息を堪える。それでもなお、ゾクゾクと震えるような快楽が背筋から這い上がってきてしまうので、呼吸の仕方さえよく分からなくなる。

「気のせいだよ、ほら、あそこにミセス・ノリスがいるし」
「あぁ、それか」

どうやら、タイミングよくフィルチのネコ、ミセス・ノリスが現れたお蔭でこの場はなんとかやり過ごす事ができた。しかし、そう落ち着いている余裕はない。何しろ時間が経てばたつほど生徒たちの数は増えていく。クィリナスの部屋は大広間へ向かう生徒たちの通路の隣にある部屋の為、夜中までに終わらせなければならなかったのだ。生徒にばれたらどうなるか、と恐ろしい事を考え必死に自身を萎えさせようとするが、クィリナスによって飲まされたそれは素晴らしいほどに効果を発揮している。

「ィ…ナス、やめ、る、んだ、今、なら、まだ、まに、あう、か、ら」
「―――ここで、わたしが、イエスというとでも」
「本当に……やめ、る、んだ、私は、誰も、愛、さない、愛、せない、君に、答えることが、できない―――若い芽を、摘みたく、ない、んだ、わかってく、れ」

必死に訴えても、出来上がってしまったクィリナスの耳には届かない。

「わたしを、愛して、名前」
「そ……んぅぅ……」

油断していた。最も避けたかった事態に陥る。クィリナスの感覚が鈍っている事を祈りたい……が、ここまで力が無くなるのだ。彼は、気付いてしまっただろう、この異変に。さらに深くなるそれは、もはや口づけというよりは貪り喰われているかのようで。深くなればなるほど、クィリナスは吐精後だというのに、見る見るうちに力が戻ってくるのを感じた。ようやく解放された時には名前は既に息をするので精いっぱいになっており、ヒュー、ヒュー、と喉から苦しげな音を立てている。

「あぁ……どうしてだろう、力が、満ちて、くる」
「……ん、うぁああうッ!?」

いい訳を、考える余裕すら与えてくれない。クィリナスはそのまま自身を再び名前に突き立て、背筋に沿って肉壁を抉る。それに情けない声を漏らしてしまったが為に、何名かの生徒はこの部屋の異変に気が付いたようだ。

「なぁ、今のって…アレじゃね?」
「え、ここってクィレル教授の部屋だろう?」
「なんか、こう…おっぱじめてる、感じの声だったけど、クィレル教授の声でもなかったし…こう、テノールな感じの声」
「まさか、教授ともあろう人が?」
「だって、今聞こえたんだよ、ほら、耳立ててみようぜ」
「やめなよ、失礼だぞ、それにスネイプ教授に見つかったら怒られるぞ」
「ただでさえ昨日散々減点されてるんだから…ハッフルパフの点が全部なくなっちゃうよ……それに、相手って誰だよ…誰か連れ込んでる、って事?」

如何やら、ハッフルパフ生のようだ。いや、寮はどうでもいい。問題は、その生徒に感づかれてそれを広められてしまう事。そうなってしまえば、名前はホグワーツを去る事となってしまう。アルバスに、もう迷惑はかけられない。ただでさ、人ならざる者である自分がここにいる事は、常識では考えられない事だというのに。保護者にばれてしまえば、ホグワーツに鬼のようなクレームが入る。毎日、吠えメールが届くかもしれない。

「でもさ…ほら、気になる、じゃんか」
「おい、お前…やる気か?」

どうして、こんな時に限って魔法が使えない状況なのだろう。杖を持つことも、呪文を唱える事もできない。防音呪文さえかけてくれれば、この際この男の思う存分、行為に付き合ってやろう。幸いにも部屋の扉は魔法で閉められている。
名前は覚悟を決め、クィリナスの唇へ触れるように口づける。そして、生徒に聞こえないよう小さな声を振り絞り、懇願する。

「頼む……この事は秘密にしておきたい、クィリナス、防音の呪文を、かけてくれ…かけてくれれば、君の思う存分、付き合う、から……」
「では誓ってくれ、わたしを、愛する、と」

言葉にすればいいのか。それを言葉にして、君はそれでいいのか。名前はこの虚しいささやきを、この男に向けて告げなければならない事に胸が痛んだ。誰かを愛することも、愛されることももうごめんだ。その思いを伝えても、この男は納得しなかった。そして、名前にその言葉を言わせようとしている。

「……愛、して、います」

この言葉を言うのが、とても辛い。今更、こんな事を言わなければならないなんて。名前の瞳から、ぼろり、と一筋の涙がこぼれる。
今までクィリナスは名前の涙を見たことが無かった。あまりの美しき光景に、クィリナスは息をのみ、そして、頬を伝うその雫を丁寧に唇で掬う。

「愛しています、名前」

貴方が、わたしの物であるならば。そうつぶやく彼の表情はうかがえなかったが、声が歓喜で揺れているのは分かった。力の入らない名前をそっと抱きしめ、クィリナスはローブから杖を取り出し防音呪文を唱えた。と、次の瞬間杖を投げ捨て、深く、深く抉るようにして名前の中をかき乱す。かき乱されるほどにジュク、ジュクとした疼きが快楽へ変わり、名前はあられもない声を上げる。防音呪文が唱えられた今、この行為を遮るものは何もない。この、無意味で、虚しい行為を。

「あっ…あっ……はっ……あっ…んっ」
「はぁ―――ッ」

しっとりと濡れた腹に手を這わせ、クィレルは恍惚の表情で2度目の吐精を迎えた。じんわり、と熱いそれが名前の熱を呼び戻す。名前も既に二度目で、もう出るものが無いのではないか、というほどに絞り出された。吐精の疲労から、通常では2度までが限界だろう。しかし、クィリナスは名前の体質に気づき、再び貪るようなキスをする。名前の中で再び力を取り戻すそれに、もう考え事をするだけ無駄であると悟り、クィレルの満足するまで侵され続けた。

「あぁ、ようやく、貴方を手に入れる事が出来た」

力なく身体を投げ出している名前の唇に、今度はやさしく口づけを落としクィリナスは再び名前を抱きしめる。抱きしめられた名前は、抵抗もせずそのままクィリナスの首筋に顔をうずめる。

「このまま、ホグワーツを出て二人でどこかに住むのも、悪くありませんね、そう、誰も近寄らない、わたしたちの場所で」

なんとも恐ろしい事を言う彼に、名前は力なく苦笑する。

「……それは、いけ、ないよ、クィリナス、君は、優秀な、ホグワーツの…教師だから」
「ああ、それでも…貴方がいれば、それだけで」
「駄目だ、クィリナス、それだけは、絶対に」
「ふふふ、冗談ですよ」

可愛い人ですね、と呟きながら、ちゅ、とリップ音を立てて名前の額に口づけをする。ああ、これで彼が満足するならいいだろう、私が受け止めていれば、最悪の事態は招かれない。あの時のようには、ならないから。
この時、名前は本当にクィリナスが自身をどこかへ連れていくのではないかと内心びくびくしていた。
すべて終わった頃、名前には出すものも無く色のない液体がにじみ出てくるだけ。ジンジンとした苦しみと、倦怠感だけが残されていた。ご丁寧にも、クィリナスは終わった後解毒剤を名前に飲ませ、シャワー室で彼の中に放たれたそれをかき出してくれた。傷ついた腸内に薬までも勝手に塗り、終いにはほかの人に見つからぬよう、そっと名前を自室まで運ぶ。着替えも済まされ、ベッドに横たわる名前の額にまるで恋人かのようにキスを落とし、部屋を去って行った。