02 愛憎ロマンス/賢者の石

ああ、どうしても、どうしても伝えたくて。クィリナスに頼まれていた書類を運びにやってきたとき、名前は彼の異変に気が付いた。いつもより、熱っぽい視線で見つめてくる彼に、何かよからぬことを感じた。長年の勘である。

「クィリナス…君は、一体どうしたんだ…何か悪いものでも飲んでしまったのか?」
「いいや違うんだ…だが、どうしても、どうしても貴方に伝えたい事があるんだ」

丁度、頼まれていた仕事はこれで最後だったので、名前はシャワーを浴び終えパジャマを着れば眠れる状態にしていた。持ってきてくれ、と頼まれた時間も時間だったためだ。夜型の生活をしていた名前は、朝日が昇る直前に眠りにつく。クィリナスはどうしても早朝に、突然必要な書類が出来たのだと名前に仕事を任せたのだ。

「クィリナス―――、熱、でもあるのかい?」
「貴方の、本心を、聞きたい」
「……どういう、意味だい」
「ああ、貴方は分かっているはずだ、わたしよりもうんと年上の貴方には、もう、はじめからわかっていたはずだ、なのに、貴方は気付かないふりをする」
「何の事、だい」
「ああそうやって、しらばっくれる!貴方は卑怯だ!」

珍しく声を荒げるクィリナスに、名前は思わずびくりと肩を揺らす。その形相に圧倒され、名前は後ずさろうとする。と、ふいに扉が思いっきり魔法で閉められ、近くのソファに押し倒される形となった。

「…クィリナス、君がそれを知っているのは以外だったけれども…確かに、私は君より、うんと年上だよ、変身術で若く取り繕ってるだけだから、正直…君がやろうとしていることは、おすすめしないよ」

よぼよぼの爺さんを、そんな風にしたいのかい。と苦笑しながらつぶやくと、クィリナスの視線が鋭くなったのを感じた。変身術で若く取り繕っているのは、この外見に対して指摘された時に使う口文句みたいなものだ。それ以外、説明のしようもないので何だかんだで長年大活躍している言葉、ナンバーワンである。実際は、幼い頃とある女性にかけられた呪いの為である。

「……それでもかまわない、わたしは、貴方の事が」

尚もあきらめないクィリナスの迫力に、名前は自身に変身術をかけて逃げようなどという事をすっかり忘れていた。めくり上がったローブの下にある太腿に、硬くて熱い何かが押し付けられていることに気が付くと、今度こそ名前は余裕の表情を失い、背中にじんわりと脂汗がにじみ出てくるのを感じた。

「―――駄目だ、君の想いには答えられない、私は誰の想いにもこたえられない」

このままではまずい、と思い少々乱暴ではあるが、彼の顔面を殴ろうとした。自己防衛だ、仕方がない。しかし、ふと、彼の悲しそうな表情とぶつかり、殴りかかろうと上げた腕も下がってしまう。ああ、駄目だ、私はこういうのに弱いのだ。

「名前、わたしは、貴方が欲しい」

ちくり、と首筋に痛みが走る。ああなんてことだ。名前は人知れず頭を抱える。このままでは、あの行為に及ばれてしまう。あの行為によって、うんと体力を消費するだけではなく、魔力も失う。しかし、この状況を回避できようにない。クィリナスはどうか、この事に気が付きませんように。そう願うばかりだ。
ぶち、ぶちと乱暴に白のワイシャツについたボタンがはじけ飛ぶ。すると、クィリナスはシャツをそのまま上に引き上げ、名前の腕をがっちりそれで縛る。ああ、何でよりによって風呂上りなんだろう、汗臭ければ彼も諦めたのかもしれないのに。と、クィリナスの冷たい手のひらが胸元にあてられる。思わずぎゅう、と目を瞑ってしまう。そこは丁度、あの子のつけた印のある場所。そこに触れられると、あの恐ろしい過去がフラッシュバックしてしまい、どうしても通常ではいられなくなってしまう。

「……っは、やめて、くれ、ないか」
「ああ、震えて、まるで子羊のようで、なんと、」

愛らしい。クィレルは正気ではない。彼の気持ちに気づいていなかったわけではない。わかってはいた、彼がきたあの日から、彼が私の事を熱っぽい視線を向けてくるようになったのを。あれと似たものを、過去に経験したことがあるからだ。伊達に年は重ねていない、それぐらいすぐにわかった。

「君の想い、答えられない…私では…この世界に、は、君のような若者が好む、女性は多くいる、勿論、君が同性愛者ならば、そういう男性も見つけられるだろう……だから、どうか、年寄りを、痛めつけないで、くれないか」
「―――年なんて、関係ない……現に、貴方はこうも美しい」

さらさら、と名前の長い銀髪に触れる。右手を顎に添えられたまま暫く恍惚とした表情で名前を見つめると、彼は嬉しそうに微笑む。

「貴方が欲しい、貴方が答えてくれなくとも、わたしは、貴方が欲しい」
「―――クィリナス、それは…過ち、だ、」

愛、とは所詮、所有権の主張に過ぎない。
過去に、私に対して同じような事を告白してきた青年がいた。あの子の二の舞にならないよう、負の連鎖を断ち切らなくては。だが、どうしたらいいのだ。名前はじり、じりと近づいてくるクィリナスの熱っぽい瞳を見つめている間、ずっとそのことを考えていた。

「んむっ……ッ!」

油断をしていた。クィリナスによって、何かを口にねじりこまれた。それはあまりにも小さく、ぬるっと喉をあっという間に滑って行ってしまった。何を飲まされたのか、はじめはよくわからなかったが徐々に体が痺れてきたところから、これが痺れ薬の一種であることを悟った。それに、腹の底から酷い痒みののようなものを感じ、もしや、とクィレルを思わずにらみつける。彼は相変わらず、恍惚の表情で此方を隅から隅まで眺めており、飲み込まされたものが何であるのかを推測しているうちに、ズボンまでずり下ろしたようだ。
ああ駄目だ、彼は、もう止めることができない。彼を受け止めること以外、打開策はない。それに彼はホグワーツの教員で、優秀なマグル学の教授。彼の授業は同じ教員としてもとてもユーモラスに溢れ、素晴らしいものだ。そんな彼を、ホグワーツから追い出すわけにもいかない。だから、事を大きくしてはならない、と名前は覚悟を決める。乱暴に扱われるのは、悲しい事に慣れている。

「んはッ……んぅ……ぅっ」

拷問とも思える、長い快楽。クィレルは普段から執拗な男ではあったが、まさか行為もこんなに執拗なものだとは。ゆったりとした執拗な愛撫は、男にとって苦しみでしかない。クィリナスは名前の弱点である脇腹を、つつつとくすぐるように撫でまわす。部屋に響いてくる粘着質な音に、名前は耳をふさぎたくなる、が生憎腕はがっちりシャツで固められているので動くことができない。足は痺れ薬で思う通りに動かないし、何より腹のそこから猛烈な痒みのような何かが襲い掛かり、意識を保っているのですら辛い。
クィレルは手慣れた動作でカリの部分をゆったりと撫で始めた。彼がたとえノーマルだったとしても、男故にどこが弱点であるかはすべてお見通しだ。着実に弱いところを立て続けに攻められ、名前の息が上がる。男で、彼よりもうんと年上であるというプライドで嬌声を歯を食いしばって耐えてはいたが。

「んぅ……んっ…ぅッ……!」

思わず、声を上げそうになった。なんと、クィリナスはいつの間にかに名前の蕾をこじ開け、指を第一関節までねじ込んでいたのだ。ぬるり、と入っていくのを見て、クィレルは名前がこちらの経験者であることを悟る。ジェルを入れていないというのに、透明の腸液が易々と奥までの侵入を許す。あっという間に指がすべて収まり、無情にも2本目がねじりこまれた。

「ぅっ……ぐ……ッ!」

これには、参ってしまう。かなり、ご無沙汰していたのもあってか、クィリナスがある一点をひっかいた瞬間、名前は思わず吐精をしてしまった。自身の手で名前を吐精させた事に、クィリナスはこれまでにない喜びを感じ、名前の腹へととんだそれをそっと手に取り舐める。一言文句を言ってやりたかったが、更に襲い掛かる腹の中からの痒みのようなものが言葉を奪う。あれを飲まされて、もう20分は経過したのかもしれない。痒みのようなものが飲まされた何かからくることは明確で。

「んぅ……ぅう……んっ……」

彼は、一応、丁寧に扱ってくれているつもりなのだろう。ゆったりとしたそのセックスに、名前は頭がぼぅっとして来るのを感じた。飲まされた何かのせいかもしれないし、ただ単に、ご無沙汰過ぎたからかもしれない。一度吐精した名前は既に体に力が入らず、一切の抵抗をあきらめた。
執拗な愛撫を受けながら、ふと棚に置いてある時計を見つめて名前は人知れずため息を吐く。もう、朝日は昇り切った頃だろう、と。