01 こんにちはそれぞれの世界 Type:N

忍者がいる世界に転生した。しかも、忍者って奴がめちゃくちゃ強い。前世で習った忍者とは全く違う。この世界では、忍者=兵士。だが、幸いなことに私は超平和な“一般人枠”。なぜ“一般人枠”だと気がついたのか。それは、6歳になったときに受けた忍者の適正試験で落ちてしまったからだ。孤児なので、忍者に向いていないと、将来とても肩身が狭いのだが、平和は約束される。お菓子作りが前世から好きだったので、仕事をするのであればお菓子を取り扱っている場所と決めていた。まだ6歳だが、前世の年齢をプラスすれば41歳……うん、前世の年齢をプラスするのはやめよう。

 

楠名前……悲しいことに、現在孤児として生きている。この異世界…もとい、今暮らしている国“火の国”の“木ノ葉の里”では、孤児を保護してくれる施設が存在する。またの名を孤児院で、親のいない孤児が主にそこで暮らしている。私の場合は、肉体年齢が6歳ではあるが、前世とトータルで41歳なので、文字の読み書きもできれば、計算だってお手の物。体力がクソなのでまだそこまで大したことは出来なかったが、飲食店の手伝いぐらいはできる。食事だって問題なく作る事ができる。よって、6歳ではあるが一人暮らしをする許可が降り、ボロボロではあるが里が孤児用に管理をしているアパートの一室を無償で借りることが出来た。

 

「きみが名前ちゃんだね、よろしくね」

「はい!食器洗い、洗濯、掃除、色々任せてください!」

「本当にきみ6歳なのかね?しっかりした子だねぇ~」

 

今日から私は、とある飲食店もとい甘味処でアルバイトを始めた。アパートの一室を無償で借りれたとしても、生活費は自分で賄う必要がある。給料は安くとも、雇ってもらえるだけでかなりありがたいことだ。店主がいい人で本当に良かったと思う。

 

「2階が休憩室になっているから、休みのときは2階に上がって食事とかをするといいよ、もちろんお昼寝してもいいからね」

「ありがとうございます!」

 

1階が店舗になっていて、2階から4階にかけてがアパートになっている。私の家は3階の角の部屋で、急に出勤を言われても全く問題がなさそうだ。2階にある1部屋がこの店の持っている従業員用の部屋で、自由に使っていいらしい。

 

「きみの他にレンという男の子が働いているけれども、平日はアカデミーに通っているから、あまり合わないかもしれないね」

「レン君ですか……忍者の卵なんですね~」

 

ここの店主ダンゴさんは、行き場のない孤児を定期的に雇ってくれているらしく、何人かは独立してすでに店を出しているんだとか。風の国にある砂隠れの里に、かつてこの店で世話になっていた孤児の1人が店を出しているらしい。

ちなみに、アカデミーというのは忍者アカデミーのことで、里に住む子供を忍者として育て上げるための教育機関だ。そこを卒業できれば、晴れて“下忍”になる資格が与えられる。しかし、全員が卒業できるわけではない。それに、入学だって試験が行われる。適正試験に落ちれば入学すら出来ない。ま、私にはもう関係無いけれども。なんせ、先月行われた試験に落ちているのだから。

里の孤児は、必ず適正試験が行われる。1人でも多く“戦力”を増やすためだ。悲しいことに、こちらの世界でも生きている限り、人は争い続けている。他国との戦争は落ち着いてきたが、戦力を増やしておくに越したことはない。だが、私のように“戦力外”通告された子どもたちは、こうして飲食店などで働きに出る道を選ぶことになる。この店には、私の他にレンという孤児の少年も仕事をしているらしい。彼は将来忍者になると思われるので、私が雇われたと言う訳だ。

 

甘味処激辛本店という、訳の分からない店舗名ではあるが、これからこの先、この店で私は働くことになるのだから、精一杯頑張らなくては。矛盾した看板を眺めながら、私は1人静かなる決意をした。

 

その日の夕方、レンくんとやらがアカデミーから帰ってきた頃、私は早速彼の部屋を訪れることにした。扉をノックすると、同い年ぐらいの少年が姿を現した。髪の毛も服も泥だらけで、田んぼにでも入ったんじゃないかと思うほどだ。思わずその姿をじっと見つめてしまう。

 

「あー、お前が“名前”か?」

「そう、名前っていうの。よろしくね!」

「ふーん……なんかアホっぽい奴だな」

「ありがとう!」

「いや褒めてねぇし」

「何でも前向きに受け取ることにしてるんだ、それが私のモットー」

「……橘レンだ、じゃあな」

 

可愛げのない子、だけど、悪いやつではなさそう。それが、レンくんの第一印象だった。彼は修行も忙しいのか、あまり会うこともなかった。夕方になるといつも泥だらけで帰ってくるのが彼の日課だ。田んぼで修行でもしてるんだろうか。

 

この店で働くようになってから3ヶ月が過ぎた頃には、すっかり仕事にも慣れた。ここは里の中心部から少し離れた場所にあるので、客足はそこまで多くはなかったが、立地の関係で任務終わりの忍者たちがよくここを訪れてきていた。その中でも、今日は店に珍しい客人がやってきた。

 

「うちは一族の人よ」

「うちは一族?」

 

裏手に来たとき、店主の奥さんであるアンミツさんがこっそり教えてくれた。彼らの服にはうちわのようなマークがあり、それを着ているのは十中八九うちは一族なんだとか。木の葉の里にどれだけの忍の一族がいるかは知らないが、その中でもうちは一族は伝説を持つ由緒正しき血族らしく、優秀な忍を輩出していることでも有名だ。

 

「眉間にシワがよっててちょっと気難しそうなお客様ね、無理そうなら言うのよ、名前」

「ありがとう、アンミツさん」

 

お茶を手渡され、それを盆で運ぶ。テーブルに置くと、ふと、椅子に座っていたうちは一族の少年と目が合う。みた感じでは同い年ぐらいだろうか。やけに落ち着いた少年だな、と思う。

 

「今月はみたらしだんごがおすすめです」

「……なら、それを3つ」

「はい、少々お待ちくださいませ」

 

少年の父親らしき人物からオーダーを受けると、メモを持ってキッチンへと向かう。みたらしだんごという名前を聞いて、やけに落ち着き払った少年の瞳が一瞬輝いて見えたのはきっと気の所為ではないだろう。

 

「ダンゴさん、みたらしだんごを3つご注文が入りました」

「はいよ」

 

だんごの串を取り出し、それにみたらしのあんをとろりとかければ完成だ。

 

「お待たせいたしました」

 

ことん、と食器が置かれる音がする。その横で、ごくり、と誰かがつばを飲み込むような音が聞こえてきた。あの少年からだ。あまりにも可愛らしかったので微笑むと、少年は気恥ずかしそうに顔をうつむかせてしまった。なんて可愛いヤツ。

 

それから、その少年は時々店に来てくれるようになった。うちは一族のことは、ざっくりではあるがその話を耳にしたことがある。彼らは強力な瞳術を扱う一族で、その瞳術…写輪眼と呼ばれる眼を持つ。実際に見たことはないが、話によると赤い瞳の中に、不思議な模様が浮かび上がっているらしく、その模様はうちは一族でも様々らしい。

 

木の葉の里には、他にも強力な瞳術を扱う一族が暮らしている。ここからは正反対の場所に位置するが、広大な敷地に立派な建物を構えている、日向一族という人たちが存在する。彼らは白い眼、白眼という瞳術を扱い、その眼でチャクラの流れを見ることができるそうだ。さらに、その能力を生かした秘伝の体術もあり、よって、彼らは木の葉にて最強の名を謳う一族でもあった。うちは一族とどちらが強いかと言われれば答えられないが、どちらも木の葉の里が抱えるチート能力だ。昔から、この眼は狙われていて、過去には他里の忍が狙っていたこともあった。今でもチャンスがあればあわよくば……と狙われてはいそうだが、過去の教訓もあって、木の葉の守りは万全だ。

 

去年、木の葉の里を九尾が襲った。被害は甚大ではあったが、1年でなんとか復興するまでには持ってくることが出来た。それも、ここで暮らす人々のたゆまぬ努力のおかげだ。当時、私は孤児院で暮らしていたので無事だったが、お陰で里は人手不足。孤児院から何人もの子供が連れ出され、忍……戦力を補うため、どこかへ連れて行かれてしまった。噂によると、彼らは身よりもないので、とある組織の元、育てられているらしい。私は孤児院を出るとき、すでに精神年齢はいい大人だったので、色々と察してしまった。表ではない、裏の組織……木の葉の里の裏の顔を見たようなきがした。

 

「いらっしゃーい、あれ、友達?」

「うん」

「へぇ、ここがイタチくんおすすめのお店なんだ」

 

長閑な昼下がり、1組の可愛らしいカップル(?)が店を訪れた。うちはイタチに、うちはイズミの二人組みだ。このとき私は初めてイズミちゃんと会ったが、本当にいい子だなぁ、と女子ながら思った。

 

「あなたはここのお店で働いているの?」

「そうだよ、私、名前っていうんだ」

「わたしはイズミ……よろしくね!」

「うん!」

 

この子も、同い年らしい。そして、イタチくん同様、年の割にはとても落ち着いている印象だった。後で知ったことだが、彼女はもともと他里で暮らしていて、父がなくなったため母の生まれ育った木の葉の里にやってきたそうだ。彼女は後に、私の大親友となる少女でもあった。

 

「2人はアカデミーに通ってるんだよね?同じクラス?」

「うん、そうだよ」

「あ、ごめんね、お茶持ってくるね」

 

ついつい雑談に花を咲かせてしまいそうになり、慌ててお茶を用意する。2人に案内した席は、窓辺で、窓の外からは美しい水仙が咲いている。この水仙は、昔からここに自生しているもので、ここの店主の奥さんであるアンミツさんが大切に育てていた。その水仙の存在に気がついたのか、イズミちゃんは少女らしい反応を見せた。

 

「わあ、きれいな水仙……」

「きれいでしょ?ここの奥さん……アンミツさんが愛情たっぷりに育ててる水仙だから、花びらもぷっくりしていて、きれいでしょ~?」

「うん!後で近くで見てもいいかな?」

「もちろん」

 

と、2人にお茶をわたし、メニューを広げて見せる。イタチくんはどうせいつものメニューだとは思うが、イズミちゃんはこの店が初めてなのだという。どれも美味しそう、と嬉しそうに顔をほころばせる彼女を、優しく見つめるイタチくん。なんて素敵な時間だろうか。メニューを手渡し、楽しそうにしている2人を横目に私は新しくやってきたお客さんに挨拶をするため入り口へ向かった。いらっしゃいませ、と言いかけたところで、私は口を噤む。

 

「っけ、うちは一族がいるぜ……」

 

ぼそりと誰かのつぶやきが耳に入る。店に入ろうとやってきた男たち数人が、窓辺に視線を送りながら悪態をつく。店の暖簾を上げたとき、そのマークが目に入ったのだろう。

 

「すみません、これから清掃にはいるので、お店一旦閉じます」

「はぁ?」

「すみませんお客様、ではまた!」

 

うちは一族のよくない噂は、ここまで届いている。木の葉の里の警務部隊であるうちは一族が仕事をしなかったせいで、九尾が襲ってきて甚大な被害をだした。九尾を襲わせたのは、うちは一族だったのではないだろうか、という根も葉もない噂が。ここは任務終わりの忍者がよく訪れるので、そういった類の噂話はよく耳に入る。まったく、ただの噂話だったとしても、こんな誰が聞いているのかも分からないような場所で話す内容かね。

男たちを無理やり追い出すと、キッチンにいたダンゴさんと目が合う。

 

「グッジョブだ!」

「あ~緊張した、ダンゴさん、今休憩してもいい?」

「おう、いいぞ、これをお友達と一緒に食べな」

「ありがとダンゴさん~!」

 

ダンゴさんからおしること柏餅を受け取ると、それをイタチたちが腰をおろしているテーブルに置く。黒い瞳がこちらを静かに見つめる。そして私は笑った。

 

「別料金は取らないから安心して、これ、一緒に食べよう」

「……ありがとう、ごめんね」

「ま、気にしないで!店に入ってきた“虫”を追い払っただけだから」

「ありがとう、名前ちゃん」

 

うちは一族が疑われているのには様々な要因があったが、それでも、彼らは何も悪くはない。お客さんの平和を守る、これも立派な従業員の努めだ。

2人が注文をしたお団子をテーブルに置くと、瞳を輝かせる彼らと目が合う。

 

「おまたせ、よかったら、また遊びにきてよ、特別席、用意するからさ!」

「……ありがとう!本当に素敵なお店だね、お花もきれいだし、お団子も、お茶も美味しいし、わたし、絶対にまた来るね!」

 

ああ、よかった。イズミちゃんはこのお店が気に入ってくれたようだ。ちらりとイタチくんを見れば、彼も嬉しそうに微笑んでいる。2人が幸せて私は幸せだよ。精神年齢40歳超には心にぐっとくるものがあった。

 

「ダンゴさんも……すみませんでした、俺のせいで」

「イタチくん、君らが気にすることじゃない、君たちは堂々としていなさい、周りの人がなんと言おうとね」

「そーそー!」

 

2杯目のお茶を飲みながら、私はふと思う。そう言えば、九尾がどうして木の葉の里を突然襲ったのか。他国との戦争も落ち着いている今、わざわざ戦争を起こす理由も無いはず……。もしかして、本当に内輪もめってやつだろうか?これだけ大きな国で、優秀な忍を多く輩出している隠れ里を持っているのだから、内側に抱える問題は簡単ではなさそうな気はしている。40歳超の勘が、そう言っている。時々、前世の記憶がなかったら、もっと簡単に生きられたのになぁ、なんて思う事はある。肉体年齢は子供で、精神は大人だ。子供のときは、子供でいられるほうが幸せだと、2度目の人生で痛いほどにわかった。